ちょうど1年くらい前に鑑賞。
このタイミングでちょっと書いておきたいことが出てきたので書き残す。
最初と最後、お約束のようにワイティティ監督が登場。あえての極端な表現でその危うさを炙り出すワイティティ監督風味の味付けをしたワイティティ映画だが、米領サモアのサッカー連盟の会長が、全編を通して語っている「相手の幸せを願う姿勢」に救われ、とても心地よく鑑賞できた作品だった。
その連盟会長に対して、対比的に描かれているのが、アメリカ本土の連盟内部のクソ男。主人公ロンゲンの首を切り、なおかつロンゲンの別居中の妻といい関係になっているのだが、彼はロンゲンの首を切る理由としてとんでもないことを口走る。
「どんなに幼い頃は従順でも、年老いて言うことを聞かなくなった犬は、うちの親父は池に沈めて殺した」
「バカな犬は、射殺した方が幸せだ」
つまり、「自分の意に沿わない相手には、僕ちゃんそういう手段を取るけど、悪いこととは思ってないからね」と脅している訳だが、ワイティティ監督としては、彼のリテラシーの低さを小馬鹿に皮肉っているのは明白だろう。
ただし、現実世界では、この皮肉が本当に皮肉として受け取られているのだろうか。
就任してから1ヵ月経たない間に、次々とトンデモ発言を繰り出すトランプ大統領に対して、それを否定せずに追随する人々やグローバル企業の状況をみると、これを皮肉として笑い飛ばさず、「その通り」と真面目な顔をして頷いてしまう人が思いのほか多いのかもしれないと思ってしまったのだ。(そう考えると中々に薄ら寒い)
中でも、ディズニーもDE&Iの取組見直しを表明したことは、個人的にかなりショックだった。
ディズニーが株主になっているサーチライトとしては、本当はワイティティの皮肉に拍手喝采ではないのか?…とか、この映画で、トランスジェンダーのジャイヤの活躍を取り上げたのも、会社としてはポーズに過ぎなかったのか?…とか、アメリカの連盟のクソ男も、試合の場面では、米領サモアの活躍に喜んでいるからセーフでしょってことなのか?…など、余計なことを考えてしまう。
ただ、繰り返しになるが、米領サモアのサッカー連盟のタビタの語りは常に素晴らしく、特にハーフタイムでの発言はジーンとくる。それを観るだけでも、この作品を鑑賞する価値があると思うし、そもそも製作会社の株主の立場が変わったからといって、作品自体の素晴らしさが色褪せるわけではないのだけれど。
やっぱり、ディズニーの表明が、とってもモヤモヤする。