Jun潤

キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩のJun潤のレビュー・感想・評価

3.7
2023.07.13

予告を見て気になった作品。
第二次世界大戦当時のユダヤ人迫害を扱いつつ、現在も油断できない状況が続くウクライナのことも考えさせられそうな雰囲気。

1939年、ポーランド、スタニスワヴフ(現ウクライナ、イバノフランコフスク)。
ユダヤ人が暮らす母屋に、ポーランド人とウクライナ人、2組の家族が部屋を間借りする。
民族や宗教の違いから、それぞれが不満を漏らしつつあったが、ウクライナの民謡「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」を通じて、交流を深めていける可能性を感じた同じ家で暮らす家族たち。
しかし、第二次世界大戦という歴史の大きな奔流は、それぞれの家族を無情に引き裂いていく。
ナチス・ドイツによる侵攻、ソ連軍の占領によって、ユダヤ人とポーランド人の親たちは連行されてしまう。
ウクライナ人の母・ソフィアは自身の娘・ヤロスラワと、それぞれの母親から託されたディナとテレサを、守り通していくと誓うが、終わらない戦禍はさらに家族同士を離れ離れにしていく。

戦争って嫌だね、怖いねだけじゃあ済ませられない作品。
人命だけでなく、血の繋がった家族だけでなく、血ではないもので繋がった家族の絆すらも引き裂いてしまう。
しかし奪われるだけではなく、国境も人種も宗教も、血の繋がりや時間さえも超えて、決して引き裂くことのできない絆も確かに存在するという確信を持つ、きっかけになり得る作品。
それが音楽という共通言語によって紡がれる絆であるのだから、今の日本で観ることにも大いに意義があると思いました。

演出的には、戦争という異常事態における人間への恐怖という意味ではスリラーだったのかなと思います。
兵士たちに子どもたちが見つかってしまうのではないかというハラハラと、これ以上子どもたちに悲痛な現実が降りかからないで欲しいと願う感情がリンクしていましたね。

世界史には疎いので、史実とのリンクや、背景にあるであろう事情についてはなんのこっちゃで、その辺りを知識として習得した上で鑑賞したら違う感想を抱くのかもしれません。
しかし事情を知らないからこそ、人が人同士の繋がりを引き裂く無情感や、突如として引き起こされる悲劇の痛々しさで、如実に心えぐられた気がします。

時が経っても消えることのない伝統、国が裂けても絶えることのない大地、そこに根付く人間。
大きな過ちを犯しても、人類はまた同じことを繰り返す。
しかしそれが変わらないことなのだとしたら、戦争などの醜い部分だけでなく、血を超えた絆などの綺麗な部分も、変わらないものなんだと信じていきたいですね。
Jun潤

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