ヨーク

ライド・オンのヨークのレビュー・感想・評価

ライド・オン(2023年製作の映画)
3.7
面白いかどうかで言えば面白かったし好きか嫌いかで言っても好きな映画ではあったのだが、まったく絶賛するほどではなくてあんまり使いたくない言い回しではあるのだが普通に面白かったなくらいの『ライド・オン』でした。近年のジャッキー作品としても特に出来が良いということもなくまぁまぁくらいのものだろうと思う。宣伝ではジャッキー・チェンの集大成としてまるで引退作のような扱われ方をしていて、確かにテーマ的にも作中の演出的にもジャッキーの半生を総括するかのような内容なのだが、そういう部分もビッタリと物語とマッチしているかというとそこまででもないかなぁという出来の映画でした。
お話はかつては名声を欲しいがままにした香港映画のスタントマンであるジャッキー演じるルオさん(役名よりも芸名の方が通りがいいので以下ジャッキー)が主人公なのだが、彼は作中では50代後半くらいだろうか(ちなみにリアルジャッキーは70歳)という年齢でもうスタントマンとしての先はなく半隠居のような生活。離婚した妻は死別し、その妻に引き取られた娘とは絶縁状態で身内と呼べるのは数人のスタント仲間と生まれたときに引き取った馬のみ。借金も抱えて優雅な老後などとても送れそうもない状況で実の子供のように育てていた馬も債務トラブルの一環として借金のカタになってしまう。誰も頼れないジャッキーは弁護士見習いである絶縁中の娘を頼るがそれと同時に昔の仕事仲間からスタントに復帰しないかという誘いも受けて…というお話です。
このあらすじ紹介でも何となく分かることだとは思うが確かにジャッキーのアクション俳優人生の集大成的な要素を感じられるお話ではあると思う。どん底な人生を送っているかつての名スタントマンが娘とか馬とかとの関係を賭けて人生を再起させる、というのは分かりやすい人情やアクションも盛り込めそうでいいお話になりそうな気はする。でもそれと同じくらいに上記したあらすじから察せられることではあろうと思うのだが、ちょっと要素を盛り込みすぎだろうというのもあると思うんですよね。俺が本作で気になった部分も正にそこで、この映画はちょっと色々と欲張り過ぎだろうというところが問題だと思うんですよ。大雑把な印象としては面白かったけど細かい部分で気になるところが多々あるっていう感じでしたね。まぁジャッキー映画は大体いつもそんなもんだけど。
取り敢えず本作の重要なトピックとしては三つのことがあって、スタント人生と息子のように育てた馬を手放さなければという問題と実の娘との関係修復という三つのことが語られる映画なのである。これが欲張り過ぎだよな思う。それらの要素が交互に描かれていくのだが中々一つの物語として収束はされずに一本の映画としては冗長かつ散漫な印象になっていると思うんですよね。スタントと馬と娘のどれか一つは削るべきだったと思う。
んでそうなると一番削るべきは娘のパートかなと思うんだが、それは別にジャッキーの娘役を演じたリウ・ハオツンがダメだったというわけではない。別に演技が下手くそだったというわけでもないし個人的にはすごくかわいくてもっと画面に映っていてほしいとさえ思いながら観てたが、なんつーかちょっと浮いてた感じはあると思うんですよね。これは何の根拠もない完全なる俺の邪推なのだが、邦画でもよくあるようにもしかしたら最近売り出し中のアイドルを大人の事情でどうしてもキャスティングしなくちゃいけないことになって脚本的にも無理して作った役なのかなぁという感じがしたんですよね。だって親子関係ならジャッキーと馬が疑似的なものではあるがカバーしてるし、そこに関係が悪化してる娘とのひと悶着とか入れる必要あるのかよっていう気はするわけだよ。娘パートがなければもっと尺も削れてテンポよくスッキリとまとまった名作になっていたのではないかなぁという気がしてしまうんですよね。
でもそこも痛し痒しみたいなところがあって、ジャッキーのアクション俳優としての半生を振り返るときにその功績を知らない若者世代の目線があった方がお話を展開しやすいというのはあるから、その役割としての娘の存在は活きている部分はあるんですよね。キスの代わりに死んでもおかしくないアクションシーンが流れる『ニュー・シネマ・パラダイス』のパロディ的なシーンは笑ってしまうと同時に涙ぐみもしてしまい、本当に大げさでなく命がけで映画を撮っていたジャッキーの人生を称えるものにはなっていたと思う。まぁ作中で三回くらい『ニュー・シネマ・パラダイス』的演出をしちゃうのはクドすぎてどうなのよと思ったが、まぁ香港映画の演出はクドいものなので…。
ま、そんな風に娘の存在も決して無駄なだけではなく活用はされているんだけど、でもやっぱそこは削っても良かったかなという気はしましたね。もっとバランスよくまとめれば文句なしの名作になったのではないかと思うので、そこはちょっと惜しいなと思う。アクション面は顔が映らない部分は大体ダブル・スタントだったと思うけど、それでも御年70歳にしては驚異的な身体の動きだったと思うのでそこは流石。馬も含めて色々とCG処理されてるところはあったが特に違和感はなかったですね。
あとはそうだな、そういう部分とは別に数年前から明らかに共産党にすり寄ってる感じのジャッキーの立ち位置とか含めて色々と思うところはあるのだが、他ならぬジャッキー自身に香港アクション映画の総括をされてしまっては何も言えることはあるまいとも思ってしまう。
あの頃の香港は青春そのものだったし、あの頃の香港映画の中で死んでもいいと本当に思ってたけど、でももうそれは終わったんだ、ってジャッキー自身からそう言われたらこっちは何も言えねぇよ。その余韻へと続くパートとして借金取りに身をやつしているチンピラ共を弟子に取ろうとするところはちょっと泣きそうになった。あれは本当に往時の香港映画のノリで、その頃の香港で映画を撮ってたことがジャッキーにとって本当に楽しいことだったんだろうなってシーンになってたんですよね。あれはいいシーンだったな。
ま、そんな感じでそこまでオススメはしないけどジャッキーはもちろん昔の香港映画が好きって人なら、ちょっとだるいパートはあるものの楽しめると思います。面白かったよ。
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