ラズベリー

おしょりんのラズベリーのネタバレレビュー・内容・結末

おしょりん(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

現在の発展を知らなければ、物語の途中でとてもつらくなっただろう。ゼロから始めた眼鏡作りは困難の連続で最初に創業者兄が危惧した通り、苦境に陥っていく。だがそれでも職人たちは支え合い、村のため家族のため使命感を胸に誇りと新しい文明への好奇心をもって突き進んでいく。職人の一人を演じた駿河太郎さんがとてもいい。

小泉孝太郎さん演じる兄五左衛門。無骨な明治の家長として存在するが、眼鏡作り指導の豊島と酒を飲み語らうシーンでは年相応の男であり、その後の独白では熱い思いを秘めていることが分かる。

そんな彼の妻である主人公むめ。幼さの残る冒頭のむめは可愛らしくフレッシュで9年後旧家の嫁としての日常を過ごしている。幸八の熱い思いに刺激され彼女自身の情熱があらわれ、あたたかくどっしりと皆を支える存在となっていく。北乃きいさんの安定感がぴったりだった。

全てのきっかけとなる幸八役は森崎ウィンさん。海の向こうに目を向ける幸八が彼自身とも重なる。あきらめず前向きに行動を起こしていく人で、最後の疾走シーンはまさに爽快。運命を切り開く瞬間が見えた。彼のこの時代の衣装も楽しめた。

むめと幸八の初恋は福井の風景も魅力的で素敵なシーンだった。序盤は3人の心情を丁寧に描いてくれたがその後眼鏡作りに重きがおかれ、恋物語はしりすぼみに。むめが幸八ではなく五左衛門に向き合っていく描写がもっとあってもよかった。ラストが夫婦のシーンで終わるのでよりそう思った。

終盤、博覧会への出店を相談する囲炉裏のシーンで兄弟と共にむめも会話に参加しているのが、3人の関係性の変化でありそれぞれの成長(あるいは時代の変化)を感じた。

その他に眼鏡屋の主人役佐野史郎さん、職人豊島役津田寛治さん、むめ父役榎木孝明さん、一つのせりふや所作で作品の質を上げていた。素晴らしかった。

原作を忠実にまとめた見事な脚本だが正直長く飽きてしまった。上手くいかない状況をもう少し短くしてくれたら楽しく見られたかも。

福井県でのロケにこだわった風景と本物の家屋での撮影が効果的だと思う。冒頭の福井県ニュースには驚いたが。最近の映画は行政の広報なのかと背筋が寒くなる。
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