ラズベリー

僕と彼女とラリーとのラズベリーのネタバレレビュー・内容・結末

僕と彼女とラリーと(2021年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

10/15(10回鑑賞後主演のファン)評価3.7に変更
まず風景がいい。
美しい豊田と恵那の秋の風景が満載。行きたくなる。
アイドル出身の主人公とヒロインは顔がいいのでアップ多用も納得。
脚本は練り込まれている。
冒頭東京のシーンは渋谷の再開発地区。オーディションに携帯切り忘れるような中途半端に役者をしている主人公にマネージャーは心がないと言い放つ。
父の死による帰郷。前日に嫌な会話をしたわりにそれを感じさせない主人公に違和感。あっさりした表情と兄の自業自得という言葉が親子関係を象徴している。家庭を顧みなかった父だが従業員との関係は良好の様だ。

脚本演出の面白い所は過去と現在を対比させながら大河が変化していくところだ。心がないと言われた役者大河が、気持ちを露わにした配信で援助を頼み客の心を掴む。あっさりした表情で父の死に顔を見ていた大河が、両親の過去を知り耐える表情をするようになり、最後にはヤリスの中で涙する。父が走った山道を大河も子供の命を守るため走る。運転席の大河の助手席に父が座る映像は現実にはかなわなかった夢だが、死後でも父の想いが大河に届いた印象的なシーンになった。

大河が変わったきっかけは父が夢中になったラリーに対する気持ちが変わったことから始まったと思うが、それ以上に店の従業員との出会いだったかもしれない。世間のはみ出し者な彼らを雇っていた父を見直す気持ちもあるだろう。基本的にお人好しな大河は仕事を失う彼らに純粋に同情するし、一緒に目標に向かってがんばることで絆が生まれる。火事になり努力が終わった時「頑張ってくださった」「楽しかったです」と言う従業員の言葉に大河が築いた関係性がある。

ラリーシーンがないのは勝ち負けを描く作品ではないからだろう。車の練習シーンも面白かった。乗り物酔いする人間には画面で酔うくらいの臨場感がある。

年の離れた優秀な兄。頭があがらない大河だが芝居の話にはむきになる。役者業に真摯に取り組んできたからこそではないだろうか。店に関して従業員がかわいそうと甘い本音をもらす主人公は人の好い末っ子感。兄も厳しい態度をとりながらもちゃんと弟の話を聞いてくれるのは可愛がっているのだろう。
子供時代の兄、母が産気づいた時父に隣の家にいろと言われ「はい!」と答える感じがすでに優等生感ある。河原ではしゃぐ弟の面倒をちゃんとみている。

大河と美帆の関係。
元恋人と高校以来の再会。再会間もないころ、恵那に一緒に行った後でお昼を誘われた美帆は嬉しそうで、大河に対して悪い気持ちはないと分かる。店が厳しい状況にあっても「大丈夫」と言ってくれる大河が美帆には安心できる存在のようだ。大河にとっては美帆の子供敢太の存在が大きいのではないだろうか。かつて大河が生まれる時に父が車を走らせたように、怪我をした敢太を大河が運ぶ。過去の自分を重ねちゃんと家族になりたいという気持ちからのプロポーズなのか。恋愛ではなく結婚に意味があるのかもしれない。美帆への好意も感じる。「あのまま付き合っていたらどうなっただろう」と美帆に言うその表情は未練と期待と下心があった。

表情演技を多く求められた敢太役が見事好演。

エンディングの空撮映像と加藤ミリヤの歌JOYRIDEが素晴らしい。歌詞にこの映画のメッセージが詰まっている。

舞台挨拶ではキャッチーな火事や歌のシーンにふれることが多かったが、もっと細かいことも聞きたかった。コロナ禍により舞台挨拶での質疑応答が出来なくなって残念。


8/25完成披露上映会にて視聴
思いがけない帰郷を機に自分の居場所を見つけた主人公。仲間と共に困難を乗り越えていくストーリーは定番だが、美しい秋の景色とラリーの疾走感が心地いい。
大事なことに気が付いた時いままでの価値観が変わる。それを受け入れる勇気と周囲の人のあたたかさが素敵だ。
地方の暮らしを綺麗に描きすぎている気もする。もっと踏み込んで主人公と従業員一人一人とのやり取りを、そこでの暮らしを反映させる描写で見たかった。
登場人物が皆いい人でさわやかに表面的に物語が流れていくのが、物足りなくもあるが、それがこの作品のいい所で、このご時世にはいいかもしれない。安心して見られる作品です。

追記(4回視聴後)
主人公が故郷で人と接っすることで表情が変わっていく。幼馴染とその息子の存在が大きい。甘っちょろい青年だがしっかり者のヒロインとぴったりではないか、などと外野気分で思った。
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