KnightsofOdessa

Agnus Dei(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Agnus Dei(英題)(1971年製作の映画)
3.0
[ハンガリー、混乱の1919年を垣間見る] 60点

ヤンチョー・ミクローシュ長編十作目。河沿いの人気のない農村で、遠くから機銃の音がしている。時は1919年、第一次世界大戦終戦後の混乱期に、短期間に終わったが共産政権が誕生していたハンガリーの農村部で起こる、共産主義者(クン・ベーラ側)の赤と民族主義者(ホルティ・ミクローシュ側)の白の対立、およびファシズムの台頭を高度に様式化した一作である、らしい。ということは、直近の『The Red and the White』や『Silence and Cry』ともテーマを共有している。らしい、というのは全く説明がなく、正直意味不明だからである(巷ではヤンチョーの作品の中で一番難しいと言われている)。そこに現れるのが狂信的な神父だ。彼はパンイチに神父平服という奇妙な出で立ちでヤンチョー的荒野を歩き回り、罪のある者もない者も平等に犠牲にすることで、この世から罪を消し去ることに躍起になっている。冒頭の、湖で馬を引いていた全裸女性が岸に上がって、共産主義革命軍の軍服を着るというシーンは、"分かりやすく"宗教的/政治的なエデンの園を暗示していたのだ。そんな政治的/宗教的狂信者たちのぶつかり合いによって死ぬのは、無関係な農民たちだ。ひたすらに"無価値"な農民たちは、意味もなく命を散らしていく。英題"アニュス・デイ(Agnus Dei)"とは、キリスト教の教義上の概念である神の子羊のことであり、これに結びついたミサにおける賛歌を指す。確かに劇中のほとんどの台詞は聖書からの引用と民謡であり、そこに対比を構築している。また、いつもの通りの長回しで、今回も全体で20カットくらいなんだが、死体役の俳優を寝かせた藁の塊に火を付けたり、機関車を長回しの動線に組み込んだり、中々強烈なことをやっていた。その意味で言えばヤンチョーも十分に狂ってる。
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