ノラネコの呑んで観るシネマ

首のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.1
織田信長に対する荒木村重の謀反から始まる、戦国末期の大嵐。
信長、村重、明智光秀は男色の三角関係にあり、なおかつお互いの首を求め合う。
この愛憎入り乱れる奇妙な侍階級の姿を、タケシ演じる百姓出身の秀吉がシニニズム的な視点から俯瞰している構図。
ゼロ年代後半以降の北野武の映画は、90年代の鮮烈さは消え、どれも出涸らし感があって、「もう本当に撮りたい企画が無いんだろうな」と感じていた。
しかし、これは久々に画にも物語にも本気の密度がある。
ただ、力作ではあるが、上手くいっていない部分も多くある。
戦乱の世の話なので、武将たちはみな間者を雇ってお互いを探り合っている。
物語の軸となるのは武将たちなのだが、間者たちまで記号ではなくキャラクターとして描き込んだ結果、全体が散漫にとっ散らかった印象になってしまった。
もちろん、これはクライマックスで人間の業を強調するためではあるのだが、もう少し焦点を絞ることは出来たと思う。
リアル「風雲タケシ城」を思わせる、細かな笑いのセンスはさすがだが、加瀬亮の信長がエキセントリックな君主と言うより完全に狂った人にしか見えなかったり、文字通の斬首をはじめ、過剰に残酷な描写が多いのも気になる。
あとこれは予告編の時点から思っていたのだが、主要人物の中でタケシの秀吉が老け過ぎていて、これから天下取る人には見えないんだよなあ。
まあ、セルフ当て書きだろうし、監督としての北野武がまだまだ枯れてないのは分かったけど。