ワンコ

首のワンコのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
5.0
【日本の歴史の幻想を切る】

北野武さん原作の「アナログ」が思いの外、僕には刺さらなかったので、この作品を観る前はどんなもんかいと思っていたが、この「首」は意表を突かれて面白かった。

歴史学者の話を聞くと、戦国時代なんて大河ドラマやこれまでの映画で描かれてきたような秩序だった整然とした社会では決してなくて、ウクライナ戦争でにわかに兵站に注目が集まったりしたが、戦国時代に戦に赴くときは、侍百姓連中であっても食糧なんて持参はしないし、現地調達が基本で、集落集落で徴収したり、略奪は当たり前で、ロクな人間じゃないやつがほとんどだったと言っていた。

戦国大名の誰が好きとか言う問いをテレビでたまに見かけたりするが、大概が、織田信長、秀吉、家康で、でもこの人たちは、戦国時代の殺戮と虐殺のナンバー1,2,3だと思う。

まあ、時代が時代だからとは思うけれども、日本人は妙に過去を美化する傾向が強くて、今回の「首」は、そういう意味でシニカルでもあって面白かった。

前にカンヌ映画祭のニュースが流れた時に、北野武さんの暴力シーンには愛情があると言っていたフランス人がいたけれども、今回も首がチョンされる場面も凄惨さはさほど感じなくて、ちょっと笑える感じもして、これも映画のシーンに対する北野武さんの愛情なのかもしれないなんて考えた。
北野作品に世界中の多くのファンがいる理由だと思う。

北野武さんには下手に日本のショービズに迎合しないで映画を作り続けてほしいを思う。

ところで、曽呂利新左衛門が、杉谷善住坊(ぜんじゅぼう)の弟子というは創作だろうか。

善住坊と云えば、昔のNHK大河ドラマ「黄金の日々」で川谷拓三さんが演じたのが印象的で(NHKオンデマンドで観られます)、信長の狙撃に失敗して、鋸引きの刑に処せられるのだけれども、この映画の物語の秀吉の野望を考えたら、曽呂利新左衛門が善住坊の弟子という設定は細かいポイントだと思うけれども、結構ふむふむと思わせられる知的な演出だと思った。

北野武を応援する意味も込めて満点。
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