【違和感/少し俯瞰して考えたこと】
Netflixドキュメンタリー
この「アメリカン・マーダー」を観て、ちょっとした違和感を感じた人も多いんじゃないかと思う。
先般日本で逮捕者が出た「栃木遺体遺棄事件」をあまりにも安易で短絡的で全く思慮が足りていないと思ってたところに、Netflixドキュメンタリーの「ジェニファーのしたこと」を見つけ、そしてこの作品もリコメンドされたのをきっかけに鑑賞することになった。
この事件は、違う意味で安易で短絡的で全く思慮に欠けていて、子供まで手にかけ驚くばかりだが、もうひとつ考えたことがあった。
エンドロールで説明があるアメリカで多くある配偶者による計画的な相手女性殺害の多さとは別のところだ。
それは、このドキュメンタリーでは、キャスターの女性が黒人なだけで、他は白人ばかりだったことだ。
非常に教育に熱心な州として知られるコロラド州は、約70%が白人で他はヒスパニック、アフリカ系アメリカ人などで人口は構成されている。
しかし、この街フレデリックについては、調べてみると約90%が白人で、アフリカ系アメリカ人の割合は0.5%だ。
そして、産業は他の地域と異なり、過去に石炭産業に過度に依存し、それが衰退したために既に豊かな街ではなくなっているのだ。
コロラド州は金鉱山で有名になったが、州政府はその後農業政策に力を入れたり、教育を充実させハイテク産業を誘致、近年ではレアアースなども見つかり、一人当たりの収入は全米の州で上位20%にランクインするほどの豊かさになっている。
しかし、フレデリックの街は取り残されたままなのだ。
シャナンが冒頭で豊かではなかったために働き詰めだったと話したところからも分かると思う。
やっと手にした幸せ。
SNSに追いたてられるような生活。
夫に対する過干渉もあったのだと思う。
離婚しちゃえば良いじゃんみたいな意見はあると思う。
ただ、フレデリックの街の経済状況を考えたら、離婚してシングルマザーでやっていくのはとても困難だろうし、クリスだって、慰謝料や子供の養育費を支払えるような状況ではないことは容易に伺える気がする。
そして、高学歴の州であるからこその、彼らにしてみたら就業機会の少なさ。
この作品「アメリカン・マーダー」というタイトルは、発展から取り残されたような典型的な白人中心の街で起きた事件を象徴的に表そうとしているのではないのか。
最近、仕事を通じてよく議論になるのは、アメリカの経済発展は他国地域と比べて例外的になる可能性が出てきていることだ。
しかし、アメリカ国内でも発展から取り残される人々は多くいるのだ。そして、その格差は国境を超えて僕たちが考えるより、精神的には更に大きなものとして彼らにのしかかっているのかもしれない。
白人配偶者による相手の女性の殺害=アメリカン・マーダー……。
いや、もうひとつ、SNSを通じてクリスを何らかの陰謀による犠牲者だとし、悪いのはシャナンだとする誹謗中傷があったことを考えると、男性優位がこの白人社会ではいぜんとして当たり前で、死者の尊厳まで打ち砕こうとする輩が多く存在しているのだ。
これも含めて「アメリカン・マーダー」なのだ。
日本は、冒頭で述べたような短絡的な事件の他、高齢者をターゲットにした詐欺事件など増え、場合によっては殺害に至るケースなどあり、思慮に欠けると思われることも多い。
もっとこんな安直な事件は増えるのだろうか。
社会として考える手立ては簡単には見つからない。