大道幸之丞

首の大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

約140年間も続いたとされる「戦国時代」。なぜここまで「天下獲りの戦いが続けられたのか」
そこの構造に大胆な「仮説」を組み込んだのが本作品といえよう。

江戸時代以前の日本の歴史は遺された書籍を紐解くしかないが、それらが書かれた、あるいは「書かされた背景」
を加味して読む必要があるし、そういった意味では憶測や空想が必要でほぼSFと変わりがない。それだから「時代劇」は自由な創作を
受け止める余地があり一大カテゴリになっているのだろう。

ただし、私もそうだが、日頃からほぼ「時代劇」を観ない者に「一般常識」なしに楽しめる工夫やつくり方が
考慮されているかと言えば「否」であった。それどころか「ここは皆わかるだろ」的なざっくり察し場面もあり
従って「だいたいこんな話なのね」と解れば充分だとわかる。

この映画は別に北野監督の最後の作品とは謳われていないが、キャストをみると過去に縁があったり、自身が気になっている俳優をすべて投入しつくした様子がある。
77歳を迎えた監督の「遺作」的な空気を感じなくもない。


さて、映画は冒頭からとにかく「画(え)」が濃い。監督は出来れば監督作品に自身が出たくないらしいが、羽柴秀吉役のビートたけしは好んでこの役を演じている印象がある。セリフもこれ、全てアドリブかもしれない。皆のリアクションをヴィヴィッドにさせたいために。
錚々たる戦国武将も結局は「好き嫌い」と「男と男の恋仲」が行動と判断の基準になっていると描く。

――しかしいつもの北野監督のパターンなのだが、作品一番の訴求点の山を越えると、自身が飽きてしまって、途中からそれまでの演出を継続するものの魂がはいらなくなる。
結局ラストに近づくにつれて細かいギャグは散りばめられてはいるものの、独自考察もなくなり、ほぼ史実に沿ったエンディングになる。

「原動力はボーイズラブだった」という結論だが、そこも驚きと戸惑いがあるのは前半辺りで、後半はそれにも慣れ、驚かされる場面もなくなるのが残念だ。

結局ワンイシュー的な映画であると言わざるを得ない。「面白く傑作だ」とは思わないが「見て置いた方がいい」という感想だ。