キリエのうたのかなのネタバレレビュー・内容・結末

まさしく「音楽映画」。時と場所が縦横無尽に入れ替わりつつ進行していくからか、長い上映時間があっという間に感じた。
歌しか歌えない(なくなってしまった)キリエにとって、幼少から音楽に触れているときが唯一自分を解放できる時間だったのかと思うと路上ミュージシャンとして生きることが現状彼女にとって最大の幸福なのかもしれない。
夏彦はものすごく短絡的に言ってしまえば「欲に負けたお坊っちゃん」になってしまうところ、震災という強烈な出来事によって重い十字架を背負ってしまって、苦しかった。よく「辛いことを乗り越えて生きる」みたいな言葉があるが、そんな生易しいものではなくて、抱えているものを心の奥底に閉じ込めたり、時には見ないふりをしたり、そうやってなんとか日々誤魔化しながらそれでも続いていく毎日をなんでもない顔をして生き続けなければならないというのが辛いけど実際だと思った。
でもどうしても私は夏彦が本当に希を心から恋人として好きだったとはちょっと思えなかった…かもしれない。
風美・夏彦と路花の関係が国の制度によって阻まれているのがとても辛い。公的には血縁関係がないのだから…と言うしかないけれど、それを越えた個人個人の事情をもってしても法治国家である以上制度に従うしかないわけで、感情対制度の構図が生々しかった。路上フェスの許可取りのシーンもその構図を感じられて、やるせなくなった。
全編通して曇りや夜のシーンが多いように見えて、それが印象的。
キリエとイッコの海のシーンと、学生時代の雪のシーンの対比が美しかった。

震災のシーンがリアルで、これは当時被災した人たちにとってはなかなか辛いものがあるのではないかと思った。
電話の夏彦の緊迫さと動揺と、希のなんとも言えないのんきさ？(非日常的すぎる経験ゆえの感情だったのかもしれないが)の対比が印象的。

誰の未来についても明示的に描かれておらず、それはこの映画がそれぞれの人生のなかの十数年を客観的に描いているだけで、この先彼ら彼女らの人生は十字架を背負っていたとしても、如何なる困難があったとしても淡々と続いていくというある種残酷な終わり方だと思った。

あと広瀬すずのイッコが圧倒的なキャラだった、すごい。