ベルベー

キリエのうたのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

キリエのうた(2023年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

アイナ・ジ・エンドに狂わされボーイ。岩井俊二好きなんだけど普通に嫌いな映画も幾つかあって今回はそっち寄り。岩井良くない俊二。

なんか色々やりたいことあったんだろうけどアイナ・ジ・エンドに狂わされてもっとアイナの歌声を!もっとアイナの表情を!なんならアイナの裸体を!と監督が暴走してるし、それはそれとしてやりたいこと削ってないし、オチを意識しないままダラダラと進められるのでひたすら散漫。で、物足りなさが勝つ。3時間もあるのに。

アイナ・ジ・エンドがダイヤの原石なのは本作を観たらもう嫌という程分かるけど、別に本作を観なくても分かるんじゃないかアイナが凄いことは。「リリイ・シュシュのすべて」の頃のSalyuと違ってアイナの歌声は広く周知されているし、彼女のアンニュイな色気も同じくでしょう。

なら「スワロウテイル」のCHARAのように芝居を引き出すのが肝心だと思うのですが、「声が出ない」と言いつつ微妙に出る設定と、彼女の唯一無二的な魅力との食い合わせが悪すぎる一人二役が全部損ねてしまっている気がする。特に前者、歌以外は全く声が出ない設定の方が歌が引き立つし彼女の台詞芝居の拙さもカバーできるのに、それが出来ていないのはアイナが喋らないと話を転がせなかった監督の力不足では。

あと松村北斗と致したり松浦祐也に襲われたりやたら絡みが多いんですが、前者は兎も角として後者は絶対要らないシーンだと思います。台詞含めてただ不快だった。台詞と言えば、全体的に台詞良くないよね今回。岩井俊二こんなだったっけ?って。クサい言い回しは元から多いけど、アイナと松村北斗のキスシーンなんてちょっと見てられないというか、エロゲでもプレイしながら脚本書いたんか?

監督がアイナイーナー!状態のせいで割を食らいまくってる松村北斗と広瀬すず。松村北斗に関してはフェードアウトでラストに絡んでこないし、広瀬すずは中盤全く出ないせいで彼女のドラマが深掘りされない。そのせいでラストもありきたり以上のものに見えない。何故彼女が結婚詐欺師に身をやつしたのか、ちゃんと描かれていたらまた違うだろうに。てか広瀬すずと松村北斗でストーリー上の役割被ってない?キャラ統合した方が散漫にならずに済んだんじゃないの?

松村北斗とアイナ(姉)のラブストーリーがしょっぱいので、敢えて生々しい震災描写に踏み込んだ意義もそんなに感じなかった。津波への危機感なく妹探しながら「ちゃんと子供産むこと両親に伝えてよ〜笑」って電話するとか、3.11以前の津波に対する日本人の意識を表したい意図は理解できるんだが、そもそもアイナ(姉)がしょっぱいキャラだから監督の狙い通りに観客に伝わっていない気がする。周りの人々も悠長に構えてたとか、そういうのがもう少し分かればさ…長い長い地震のシーン観るのはメンタル的に結構辛いんだから、その間アイナの半裸が映り続けるとかそういう表現としての時間のロスは避けて欲しかった。

音楽は好きなんだけど小林武史と演者の功績が大きく、音楽映画を自称するのに映画的なアレはそんなにだな…とも思っちゃった。音楽が良いからこそ映画としてもっと良くなれるだろっていう。主人公が歌う理由付けが弱いんだよな。「歌しか歌えない」割には。もっと姉と歌で繋がってたとかあれば。母親が大塚愛だったり、震災後出会うストリートミュージシャンが七尾旅人だったり歌の素晴らしさを説く機会は沢山あったろ。アイナに狂わされてるからスルーしちゃうんだよ…人生一度だけの演技らしい七尾旅人、あれじゃただやたら声の良い不審者じゃん。

上記の2人を始めとする、業界関係なしのバラエティ豊かなキャスティングは相変わらず面白いけど。粗品が一丁前に良い役やってて笑っちゃった。あとレジェンド歌手なのに場末のスナックでそこそこの歌声聞かせる冴えないオッサンに徹する石井竜也。樋口真嗣は出オチかと思ったらシリアスなシーンでも絡んできて、これ配役ミスじゃないの?「ラストレター」の庵野秀明は美味しい役だったのに…こんなとこでも庵野秀明に美味しいところ取られちゃうのか樋口真嗣…。

本職組で言うと、村上虹郎や笠原秀幸も良いけど北村有起哉やっぱり上手いなと思いました。江口洋介、「スワロウテイル」以来なのにあの使い方はナシだろ…「打ち上げ花火〜」以来の奥菜恵は納得できる使い方だったのに!!
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