ビンさん

いずれあなたが知る話のビンさんのレビュー・感想・評価

いずれあなたが知る話(2023年製作の映画)
4.5
下北沢トリウッドにて鑑賞。

2019年に観た『幸福な囚人』は、とにかく頭から冷水ぶっかけられたような衝撃を受けたわけだが、翌年早々に監督はじめ、出演された演者さんの舞台挨拶を京都みなみ会館で拝見した際に、重厚で陰々滅々とした作品(笑)ながら、実際は監督も演者さんも気さくな方ばかりで一気に心を掴まれたのだった。

主演女優だった小原徳子さんもその一人。
『幸福な〜』での役柄は、演じていてメンタルに何らかの影響があったのでは、と思わせるくらいに壮絶なものだったが、とても気さくな方で、撮影時のエピソードも楽しく語ってらっしゃったのが印象的だった。
実際はそれ以前にも主演されている作品は幾つか観ていたのだが、お名前とお姿が確実に一致したのは『幸福な〜』だった。
以後、出演されている作品も追っていたが、その小原さんが自身で脚本を書かれた、そして、それを映画として形にしたいと、クラウドファンディングで資金募ってらっしゃったのを知り、それでは、と些少ながら協力させてもらったのが本作、『いずれ〜』である。

当初は俳優さんが書いた脚本ということで、ファンの末席に侍らせてもらっているので協力するのは当然とはいえ、たしか簡単なシノプシスでは、ちょっとしたサスペンス、くらいの印象だった。
しかも、語弊承知で書かせてもらえば、当初は女優さんが書いた脚本か・・・とほんとに失礼なことだが、それくらいの軽い気持ちだった。

が、随時発信される製作報告を拝見する中で、ん? これはちょっと違う匂いがするな・・・と。

また今年、同じくクラウドファンディングに協力させてもらった、こちらも俳優さんである水村美咲さんが原案を担当された『ありのままで咲け』、『ありのままで進め』が予想を上回る完成度だったのを目の当たりにしたこともあって、これはひょっとすると・・・という期待を胸に下北沢トリウッドへ行ったのである。

結果、作品は予想の斜め上どころか、「三段垂直跳び」の如き仕上がりに口あんぐりだった。
マジで、マスクしてたので傍から見てもわかんなかったろうが、ラストはほんとに口開きっぱなしで(笑)

靖子(小原徳子)はシングルマザー。
5歳の娘綾(一華)と二人暮らしだったが、低収入な暮らしの中で、とうとう電気も停められてしまう。
仕方なく、靖子は風俗店に務めることに。

一方、靖子母娘が暮らすアパートの隣人で勇雄(大山大)という男がいた。
フリーのカメラマンである勇雄は、以前から靖子のことが気になっている様子。
靖子と綾のことを無断で写真に撮ったりする、いわばストーカーである。
なので、靖子が風俗で働くようになったのも察知している。

ある日、綾が何者かに連れ去られてしまう。
それは近くに住む千代(蓮池桂子)と吉(穂泉尚子)という二人の老婦人だった。
以前から二人の老婦人は綾に話しかけたりしているのを靖子は目撃していたので、その誘拐犯には心当たりがあった。

はたして、靖子は老婦人から綾を取り戻すことができるのか、また、当然ながら靖子と綾のことをストーキングしている勇雄は、この事態に対して、どんな行動に出るのか。

ここで最初に書いた、想像の「三段垂直跳び」の如き、意外な展開に物語は転がっていき、驚天動地なラストを迎える。

本作は68分の中編ながら、とにかく内容が濃厚で、まるで2時間の映画を観ているかのよう。
いわば「三段垂直跳び濃縮還元ジュース」の如き。

とりあえずは上で書いたような物語が展開するのだが、シークエンスの端々にユニークな演出が施されていて、キャラの心情を一見掴みづらいように「外し」ていくので、正直片時も目が離せない。

故に、あのシークエンスでのあのキャラの行動はいったい? という疑問も、よく観れば伏線が張られていて、といっても明確な答えが提示されるわけではないので、観終わって直ぐにもう一度観たくなるリピート性、もとい、中毒性のある映画なのだ。
いわば、「三段垂直跳び濃縮還元ジュースお替り下さい」といったところか。

とにかく、このひと筋縄ではいかない物語を構築した小原徳子さんの才能と、それを見事に映像化した古澤健監督の演出には、完全にノックアウトされた。
あ、もちろんプロデュースされて、勇雄を好演された大山大さんも、そして本作に賛同された多くの演者さんたちにも大きな拍手を贈りたい。

とともに、現在この映画を観ようと思えば毎日観ることができる、東京在住の方々が羨ましくてたまらない。
僕は今回一度観ただけだが、あれこれ解釈したい部分も多々あって(たとえばアパート屋内のシーンでの雨音や、屋外ロケのあの強風は自然なのか演出なのか、なぜ綾は靖子をママと呼ばないのか、そもそもタイトルが意味するあなたとは誰のこと等々、挙げれば枚挙にいとまがない)。

そして、かように素敵で珍奇な作品に仕上げていただいて、出資者の一人としても鼻高々、お腹いっぱいで、あらためてお礼を申し上げたい。

連日、トリウッドでは小原徳子さんをはじめ舞台挨拶が行われているとのことだが、20日は小原さん、そして風俗店の同僚でまるで牢名主(笑)のようなキャラを好演(小原さんとはキャットファイトも‼️)された伴優香さん、靖子の夫で印象的なシークエンスを好演された蓮田キトさん、本作の謎を読み解くキーのような存在である勇雄の母を演じたオノユリさん、靖子が務める風俗店の待機部屋スタッフを演じた中村成志さんという、演者の皆さんの登壇による、楽しい舞台挨拶が行われた。
残念ながら大山大さんは体調を崩されたということだったが、本当に本編共々満足度高き上映会だった。

願わくば今後、いつになってもいいので関西でも上映されんことを‼️
ビンさん

ビンさん