umihayato

ファイアーブランド ヘンリー8世最後の妻のumihayatoのレビュー・感想・評価

5.0
『歴史は男と戦争によって語られる』
映画冒頭で画面に出るこの言葉は、今作の舞台である中世ヨーロッパにだけ有効な言葉ではない。
僕らが生きる世界の歴史のほとんどが女性の視点で綴られ語られてきていない。

今作は、女性や子供の人権が顧みられることのない社会を女性の目線から見た作品である。

その社会では、子供は「跡継ぎ」としてのみ必要とされ、女性は「出産と慰め」としてのみ利用される。
ヘンリー8世と、その権威や取り巻きの権益のみを追求する為に作られた国教会の行いは、これまで語られてきた男社会の醜悪さと、神の名を権威の為に利用してきた宗教界の欺瞞を糾弾するには十分すぎる。

そんな王政を否定した人達が逃げ出し建国したのがアメリカのはずなのだが、今現在のアメリカはと言えば、まさに今作のチューダー朝英国の様であり、ホワイトハウスは自国の大統領をこともあろうにKINGと呼ぶ始末である。
この映画がなぜ今作られたかを論ずる要素はアメリカだけでなく世界中に転がっている。
『男と戦争によって語られてきた歴史』しかこの世には残ってないからだ。

超余談であるが、とあるバンドがステージに子供を上げて「子供はこの国の宝で未来だ!」と言うパフォーマンスを行っていたのを見たことがある。
いい光景だと思うと同時に何か一抹の欺瞞やおかしさ、居心地悪さを覚え、それがなんだろうなーと思っていたのが今作によってまとまった。
子供は国の為にあるものでも、国に"宝"として閉じ込めるべきものでもない。
子供の未来はその子供個人のものであり、それが国に縛られないのが人権というものだ。
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