やまもとしょういち

PERFECT DAYSのやまもとしょういちのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.7
勤勉で几帳面、寡黙な平山は、いかにも日本人らしい。こんな人が実在するかどうかは別として、本作には、平山という人物と、平山を通じて描かれる繰り返しの日常のなかにある微細な変化、陰影、静寂を愛する心など、日本文化のステレオタイプのイメージが丹念に織り込まれている。

「なんでずっと今のままでいられないんだろうね」
「何も変わらないなんて、そんな馬鹿な話なんてないですよ」

ヴィム・ヴェンダースが描く無常、陰翳礼讃を通じて、私たちは「日本」を知ることができる。本作はそういう映画だと思う。

また平山は他者との競争、資本主義が提供する「価値」やそのシステムそのものから「降りた」人物として描かれるが、高度に発展した資本主義社会の先にある超格差社会、文明の黄昏を、日本文化を題材にして描いていることに心底打ち震えた。ナショナリズム的な感情とは一線を引いたうえで、いま自分が生きている社会がこんな視点で描かれたこと、そのリアリズムに撃ち抜かれてしまった。

「この世界は本当にたくさんの世界がある。繋がっているように見えて繋がっていない世界もある」

平山を演じた役所広司が同じく主演を務め、ともに足立区に暮らす主人公を描いた西川美和監督『すばらしき世界』のあり得たかもしれない世界が描かれているようにも感じて、自分にとっては本当に特別な映画となった。