とこ

PERFECT DAYSのとこのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

 冒頭シーンから最高。木漏れ日が美しくて見惚れてしまった。全く予告編も観ずに行ったから、どんな内容かは分からなかったけど、朝目覚めて支度をしてトイレ掃除をして、ご飯を食べてまた家に帰って寝て、起きて…の繰り返しのサイクルが、普通だったら眠くなりそうなところが全然眠くならなかった。役所広司は初めてスクリーンで拝めたけど、どれだけ素晴らしい役者なのかというのを思い知らされた。それは前半は特に、あそこまでセリフの少ない中で表情や日常の生活で行う動きだけでひらやまのかんじょう平山の感情が全て伝わってくるということ。役者というものは、最高峰の領域に達すると、何一つ語らずともその役がどういう人物であるのかが分かるんだな…と思い知らされた。
特に印象的だったのが、朝家から出た時の表情だ。予想としては、今日もまただるい仕事が始まるよ…とかったるそうな感じなのかなと思いきや、いつどんな日でも平山の表情は今日という日を始められる喜びのようなものに満ち溢れていた。毎日が本当に同じことの繰り返しで、もはや後は死を待つだけなのかと思えてくるほど、側から見ると味気ない日々に見えてしまうのだが、どうやら平山は、そんな日常の中にも音楽やフィルムカメラ、行きつけの居酒屋や銭湯で生きる喜びや楽しさを見出しているようだった。その姿が、想像には易いのかもしれないけれど改めてスクリーンで見せられると、「何も特別なことをしなくても、毎日を楽しむことはできるんですよ。」と平山に教えられている気がして、自分の生活や日常への考えが馬鹿馬鹿しくなった。どこか遠出に行って遊んだり、バイト代を使って高い買い物をするとか、そういう大胆(とまではいわなくても、ルーティーンから外れた行動)なことをしなくても、十分に人生って楽しいんだな…と気付かされた。
 別に平山だって私みたいに若い頃は沢山遊びに行ったりしたかもしれないけど、日常の中にある些細な出来事から幸せを感じることができるんだよという考えが、今の私の頭の片隅にあるだけでも、だいぶ気持ちが楽になったと思う。
 柄本時生の役は、めちゃめちゃムカついたし、結局ガソリンが無くなってカセットテープを売らざるを得なかった場面の下りは観てて胸糞悪くて嫌だったけど。でもそれが良い悪いとかではなくて、ルーティーンにはないハプニングも含めて人生なのかと思えた。柄本時生がバイトを辞めた時に、平山が会社に怒鳴っている姿は、いつもの温厚さからは想像がつかなくて驚いた。でも大金を貸した件も含めて、よりストレスが溜まったのは確かだし、自分でもあーなると思う。
にこちゃんが訪ねてきてから、今までの日常にはない楽しさや2人分の出費などがあったけど、誰かと生活することに乏しい平山にとってはオアシスになったと思う。にこちゃんのお母さん(妹)が訪ねてきて、本当にトイレ掃除やってるの?と聞いてた時の妹の表情が、兄は私と違って貧しい生活を送っているんだという現実にショックを受けている感じがして、なんだかとても苦しかった。父の話もあったけど、最後車で去っていった時に平山が涙した理由は、正直なところよくわからない。父の件なのか、にこちゃんが帰って寂しいのか(前者有力)。
 にこちゃんと自転車を漕いでいて、「この世界は繋がっている世界と別々の世界があって、僕とお母さんは別々の世界に生きているんだ」と言っていたのが、胸に響いた。確かに、ホームレスのあのおじさんと平山は繋がってそうに見えて別々の世界に住んでいるし、兄弟ではあれど平山と妹は、全くの別の世界に住んでいる。その世界というものは、大半がお金の差なんだということにも、気づいてしまった。やはりお金がないと何もできない。できないなりにも平山のようにささやかな暮らしに楽しさを見出せる人もいるが、妹とは全くの別の世界である。それが今後私が生きていく上で、お金にどう左右されるのかを考えさせられるセリフだった。
「今度は今度、今は今」これくらいざっくりとした割り切り方で人生というものは、案外やっていけるんだな。
 石川さゆりが出ているのはびっくりしたし、演技もうまくてよりびっくりしたけど、何よりも三浦友和が役所広司と一緒にお芝居をしているのを観れるなんて、なんて豪華なんだ!!!と感服した。「影って重ねると濃くなるのかな…そんなこともわからずに、終わっちゃうんだな…」のシーンで、実際に影を重ねて影踏みもして遊んで…の姿が、歳をとっても消えない少年心を観れた気がして嬉しかった。いつまでもその気持ちは私もなくさないでいたいなと思う。
 ラストシーンの役所広司の演技は、そりゃカンヌ国際映画祭最優秀男優賞獲るわ…と思った。それまでの演技ももちろんえぐかったんだけど、なんだろう。泣きたい気持ちもあるんだけど、笑顔でもある。最初は泣いてるかなんて分からないくらいだったのに、段々と笑顔よりも泣きたい感情の方が上回ってきて、でも笑顔で…っていうのが、圧巻すぎて。でも、その平山の気持ちは何となくだけど私にも分かる気がする。上手く言葉にはできないけど、分かる気がする。明日も、何気ない今日も頑張って生きよう、と思えた。
とこ

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