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PERFECT DAYSのtsubasaのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
こんなふうに生きていけたなら

主演は役所広司、第76回カンヌ国際映画祭では最優秀男優賞を受賞。
日々生活をしていると、いつのまにか決まるルーティン。
決められた仕事をこなし、一日の終わりに達成感を得たり、平凡な毎日に焦りを感じ変化を求めてしまう事もある。
自分達はどちらも感じながら過ごしている、歳を重ねてもまだ変化を求めてしまう。
本作の主人公平山はどうなのか?
自ら選択し、同じことを繰り返す平山の心に変化は訪れるのか?
静かで美しい映画なので、盲目的になるかと思えば逆にその本懐が浮き彫りになる。
新しいものを求めないのは、自分の心が健やかでいられる方法を知っているからで、多くの物は必要。
平山にとって、それは人間関係にも言える。
時折あらわれるふと脳裏によぎる遠い記憶が平山を動揺させるが、新しい朝は必ずやってくる。
平穏の牢獄に自らを無理矢理閉じ込めて成人なフリをすることは、幸せなのか逆に苦痛なのか。
おれは苦痛だし、困惑している毎日に。
だからこの作品がより深く刺さったような気がしてる、本質はただの凡だから。

公共トイレのスタイリッシュさにはとても驚いた。
建築家の板倉竹之助さんが手がけたトイレ。隈研吾さん、坂茂さんをはじめ、様々な有名建築家の作品が登場する。
暗くて湿ったイメージの昔の公共トイレとは大違い。スタイリッシュなトイレは、公共という意識そのものをアップデートするためにリニューアルされたそうだ。
確かに、使用したくなるし、綺麗に使わなければ、という意識が自然に働くと思うからアートの力は絶大だ。

冒頭からしばらくの間セリフ無しのシーンが続くが、セリフを重ねなくても厚みのある演技で平山の背景にあるものを魅せる。
俳優人生が長いからこそ成せるワザだと思う
拘りのトイレ掃除と毎日を丁寧に過ごす所作も、ヴィム・ヴェンダースが注目する日本人の美意識が見事に表現されていた。

ラストシーン、ニーナ・シモンの「Feeling Good」の音楽をバックに、車の中で平山が笑いながら泣いている姿にグッときて、劇場でもらい泣きした方も多いのではないか?
平山は何を思い、泣いて笑っていたのか、本当に様々な感情が入り交じっていたのだと思う。
小さな幸せが日々溢れていることの素晴らしさ、はたまた局地的苦痛かは我々鑑賞者のそれぞれの人生によって異なる。
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