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侍タイムスリッパーのtsubasaのレビュー・感想・評価

侍タイムスリッパー(2023年製作の映画)
3.5
ただ単にいつの時代か分からない侍を現代に持ってくる訳じゃなく、タイムスリップしてくる侍達それぞれに背景があって、作品自身に『時代劇を愛する』想いが籠っていた。

主人公の新左衛門も敵側の風見も、侍の時代がもう終わろうとしている最後の世代の「それしか出来ない人達」な訳で、だからこそ自分達が生きていた証としての意味も含めて時代劇に関わっていくのだけど、その「時代劇」すらも終わろうとしていて、不器用になんとか自分達の想いを消すまいと奮闘していくのが感動的だった。

そして、単純に新左衛門がTVで観た時代劇に感動するというシーンが、とてもコミカルに入ってくるのも良かった。
過去から来た人がTVに驚くというのは、タイムスリップ映画で定番のギャグシーンだと思うけど、それ以上にそこで流れる時代劇に感情を揺り動かされ夢中になってしまう所は、「時代劇にはそれくらい面白いのである!」と、作り手が信じている感じがして、笑いを取り入れながらも実はめちゃくちゃ熱いシーンだと思った。
斬られ役という仕事を、コミカルさを入れつつこちらに丁寧に説明してくる描写とかも楽しく観ることが出来たし、彼が本物しか出さない味でどんどん出世していくのが高揚感があった。

そして、そこまでチャンバラとして描いていた時代劇を、命のやりとりとして演出し直す最後の立ち合いシーンも思わず引き込まれた。
一太刀一太刀に緊張感があって、刀で斬り合う事の怖さを役者2人の名演もあり、しっかり描き切っていたと思う。
強い侍が爽快に敵を倒すだけではなく、斬り合う事の怖さにハラハラするというのも時代劇を楽しむ醍醐味で、だからこそ最後に血が噴き出た所で驚くし、その後それはスクリーンで映画として観ているお客さんの視線だったのが分かる事で安堵すると同時に、同じ様に今では無くなりかけている時代劇を見る事でハラハラしていたこちらの視線と同一化していた事にも感動してしまう。

とはいえ、ラストの展開は同時に今作で一番気になるポイントでもあって、止める人もいるし斬り合う2人が納得しているとはいえ、真剣を使い撮影するというのは、「時代劇」の展開としては良くても「時代劇愛を語る作品」という意味では、アウトな気もした。

あと気になった所で言うと、安田監督の前二作に比べて要素が多いのは分かるけど、ちょっと上映時間が長過ぎる気もした。
コテコテな関西弁のギャグ的なやりとりとか楽しいのだけど冗長にも感じて、前二作と同様に2時間以内に納まっているともっと観やすい印象がした。

やはり安田監督の凄い所は低予算だろうがエンターテイメントとして、普段映画を観ない人だろうと、誰もが楽しめる作品を作り出そうとする姿勢だと思う。
ただし本当に残念だったのは『カメ止め』の再来として評判が出回っていたこと。
全くジャンルが違う事を知らずに鑑賞を続けていたため、最後に何か仕掛けがあるのだろうと、今作を真に楽しめなかった。
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