このレビューはネタバレを含みます
役所広司さん演じるトイレの清掃員の日々を淡々と描いた作品。
最初は無声映画かなと思ったほど、セリフもなく、ひたすら映像だけが映し出される。それが不思議と心地良く、日々のルーティンもリズムがよく引き込まれていく。
朝、近所の人のほうきを掃く音で目が覚めて、一日が始まる。目覚ましの機械的な音で強制的に目覚めるのではなく、ゆるやかに夢から現実へと戻ってくる雰囲気が素敵だと思った。
そして毎晩みる夢もモノクロフィルムのような不思議な世界観を感じる夢。その日に経験したことや、出会った人の姿もあれば、木々の揺らぎなど、模様のような影が織りなす夢を日々みるのである。
その夢が何を意味しているのかはわからないが、人の脳は引き出しのようになっていて、記憶したことを定着させるために、毎晩ランダムに引き出しから情報が出てきて、夢をみるらしいと聞いたことがある。
情報の組み合わせによっては、訳のわからない夢にもなるし、現実的なリアルな夢になる場合もある。本作に出てくる夢は、現実と非現実とか混ざったような不思議な温度感のある夢だった。
役所広司さんがとにかく格好良くて、その佇まいに引き込まれた。自販機でコーヒーを買い、車でカセットテープを聞く。淡々と仕事を無心でこなし、銭湯に行き、古本屋や写真屋に行く。観ているうちに、自分もこんな暮らしがしたいな、とふと思った。
住んでいるアパートにも味があり、電球や部屋の感じがとても良かった。遊びに来た姪っ子が帰りたくないと言うぐらい、居心地の良さそうなスッキリと整頓された、それでいて味のある部屋である。姪っ子とのやりとりも良かった。「今は今、今度は今度」と言いながら、自転車を二人で漕ぐシーンを見て、こんなおじさんが自分にもいたら良かったな、こんなおじさんがいたら何でも相談するし、会いに行きたいと感じたのだった。
姪っ子役の子も、聡明で真っ直ぐでとても良い女優さんだなと思った。役所広司さんとの相性がとても良いと感じた。あんな素直で真っ直ぐな子はなかなかいないとも思ったし、あんな素敵な女の子のお母さんが、少しクセのある感じの雰囲気がした(見るからにお金持ちそうだし、会話の節々からトイレ清掃員を馬鹿にしている雰囲気がした)のも意外だった。
そんな姪っ子との穏やかな日々にも涙が出たし、トイレに置かれた謎のメモの持ち主と、マルバツゲームをして、最後に「thank you!」と書かれたメモを見たシーンでも泣きました。
登場人物全てが良い人というわけではなくて、クセのある人も何人もいましたが、役所広司さんの役がそういう人達を受け止める器量がある役と言いますか、テープを売ろうとした若者を咎めたりせず、現金を渡したり、とにかく人間性が素晴らしいと感じました。
ラストは、涙が止まりませんでした。これほどまでに終わってほしくない、まだ物語の世界観に浸っていたいと思った作品は初めてです。話題作として気にはなっていましたが、もっと早くに観たら良かったと思うぐらい、素敵な作品でした。
タイトルのパーフェクトデイズは、直訳すると完璧な日々となりますが、役所広司さん演じる清掃員の日々は、まさに私から観ると良い人生であり、完璧な日々に見えました。
お金がある、ない、ではなく、どんな仕事をしているか、どんな場所に住んでいるか、ではなく、人間性が素晴らしい人は人生としっかりと向き合い、周りの人からも信頼をされるものなのだな、と改めて思いました。一言でまとめるならば、愛おしい作品です。
長文のラブレター、失礼致しました。