このレビューはネタバレを含みます
実在の事件は実在の事件としてあって、しかし、本作の舞台となっている事件から23年後の物語が実在に基づいているかは分からない。それぞれのキャラクターの行く末を観客にほぼ丸投げに近いような終わり方なのに、冒頭からラストまでの心理戦、描写がそれぞれの闇を覗き込むような仄暗い丁寧さがあり、とても奇妙で重厚な人間ドラマとなっていた。ナタリー・ポートマンが選びそうな作風だ。人生の負い目がある者が“誰かに見透かされ続ける”というのは何の危害を加えられていなくても、自ら破滅へと向かってしまうものだと思う。エリザベスとジョーはあれだけのすれ違いを抱えているのに、一見、上手くいっている風の夫婦を続けていられたのは“見られていた”からなのだろうか?ジョーの苦しみが突出していて、愛する人の、しかも自分よりかなり人生経験の未熟な彼の苦しみを見ないふりし続けられるエリザベスが私には理解出来なかった。周囲の人々が沈黙しているのも含め、エリザベスにはそれだけ周囲を黙らせる狂気さがあったということではないだろうか?と感じた。(実際、ジュリアン・ムーアの演技は怖かった)劇中映画は誰も満足出来るものが完成するとは思えないけど、本作の映画としての人間ドラマは一見の価値ありです。