にゃーめん

落下の解剖学のにゃーめんのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.0
「倦怠期夫婦もの」×法廷ミステリーという取り合わせは新鮮だったものの、仲違いをしている夫婦に挟まれる子供と犬が不憫すぎて、そっちに気持ちが引きずられてしまい、イマイチこの作品という船からの景色に魅力を感じられなかった。

『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』のような犯人探しが主軸となるタイプの話ではないと気付いてから、不覚にも意識が途中途中で飛んでしまった…

しかし、唯一寝ずに見守った法廷シーンの弁護人と検察官、被告人の舌戦はフランス語、英語が入り乱れる展開は胸熱。

日本の法廷ドラマでは見られないお国柄がよく現れたシーンであった。
(特に証人の1人が「マドモアゼル(未婚女性)と呼ばないでください」という台詞には、さすがフランスの作品はジェンダー意識が高いなと思うなど。)

自分が裁判員裁判に参加することになったら、という目線で見ると、人を公平に裁くことがどれだけ難しいかを追体験するような作品ではあった。

妻の言い分
子供の言い分

それぞれの証言で浮かび上がってくるものがあり、"真実"は一つだが、"事実"は証言者それぞれの主観で語られるため、本当のところはどうなのか、結局最後までハッキリとは語られないことによるフラストレーションが溜まり続けひたすらしんどい。

そんなしんどい内容の中の唯一の癒しとなった、ホットな弁護士と海外評で話題のヴィンセント弁護士(スワン・アルロー)の、吉岡秀隆的風貌も相まったなんとも言えない色気は良かったが、こんな凄惨な事故が起こってるのに、被告人に対する私情をほんのり持ち込むのはどうなの??という気持ちにもなり…なんとも複雑。

夫婦が作家同士であったり、夫よりも妻が稼いでいる事、家事や育児の負担が夫婦平等で無いこと、妻側がバイセクシャルであることなど、設定がより現代的なことも相まって、単なる謎解きを主軸にしていないことは加点ポイントとなったが、正直これがカンヌ映画祭でパルムドール受賞か…という思いが強い。

類似作品の「マリッジストーリー」(2019)でもそうだったが、夫婦間の諍いで1番の被害者になってしまうのは、結局子供であるという結末もなんとも現実的すぎて悲しい。

まだ未成年の子供が、裁判の傍聴をする事で、母親が夫にして来た事をすべて知ってしまうという展開はまったく評価できないし、あの子はあの後どんな気持ちで母親と一緒に暮らして行くのだろうか。
にゃーめん

にゃーめん