ToscheYuki

落下の解剖学のToscheYukiのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.6
事故か、自殺か、それとも他殺か。タイトルとプロローグからミステリー作品と誤解してしまいそうですが、本作は法廷もの。ただ、法廷というメスが、徐々にこの家族を解剖していくという物語で、このタイトルがいかに秀逸かがよく分かります。

意識的に当人の感情を表すようなカメラワークや、供述を映像と音のバランスでパズルのピースのように見せるような映画らしい演出。言語や視覚の壁によって、情報の遮断による複雑さ。そして最大の鍵となる、親子間のフィルターと距離。

些細な家庭内のトラブルも、どう見られるか、どう切り取られるか、どう信じるかによって、裁かれ方が変わってしまう。それを裁くのは自分ではない。抉られるはずのなかった傷を抉っていく裁判の不条理に、事が終わったときには、観る側も何かを失った気分になりました。

強引かもですが、SNSやメディアで日々起こっている炎上なんて、まさに同じような話でやるせなさを重ねて感じました。
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