ロアー

落下の解剖学のロアーのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.7
フランス映画だと思って観て、私が思うフランス映画の終わり方通りの終わり方をした映画だった。フランス映画だから何となくこう言う後味になることは予想がついてた。

「ザ・ステアケース」のような事件からもっとエンタメ性を取り除いて、"フィクションに実体験を織り込む作風の小説家"という妻の設定に重ねて、フィクションとリアルの境界線を曖昧にするような描き方をしていた映画だった...というかリアル過ぎて、逆にリアルをフィクションに寄せているような感覚すらあった。

"解剖学"というタイトルにもどういう意図があったんだろう?
言い換えれば"真実/虚構の解剖学"だったとも捉えられるし、受け取り方によってすごく個人的にも客観的にも観ることができる映画だったので、解剖学に絡めるなら「それをBODY(体)として見るのかBODY(死体)として見るのか」、「それをHEART(心)として見るのかHEART(心臓)として見るのか」、そんな風にも考えたりした。そして私は"死体"と"心臓"としてこの映画を観た。

(真面目な時は)割と論理的に物事を考えたいタイプだし、答えが出ない問いに悩む時間は無駄だと切り捨てるタイプでもあるので、あのラストはすごく納得したと同時に「今更やっとここへ辿り着いたの?」という気持ちもあった。真実なんて酷く主観的なもので、むしろ世の中はグレーが一番濃いと思ってる。

夫のような自滅タイプが嫌いな私には、妻の言い分が正論に聞こえてしまう。ただ「死人に口なし」とはよく言ったもので、あれも全てあくまで妻や息子から見た夫の姿であって、それが真実の姿だったとは限らない。常にそういう疑いを持つことは大事だと思ってる。人は自分が信じたいものを信じて、時にそれが社会にとっての真実にもなり得る。

でも、法廷のシーンでは思わず私の中のナルホド君が「異議アリ!」って何度も指ビシーッ!ってしちゃった。司法に詳しい訳じゃないし、日本とフランスで色々違いもあるんだろうけど、そもそも状況証拠だけで起訴されるの怖くない?検事も誘導尋問しまくるわ、憶測で語るわ「フランスの司法怖っ!」って別のベクトルで怯えてた。警察も裁判長も何だか無能だったし。

あと、犬が可哀想な目に遭うのは単純に嫌だし、個人的なトラウマもかなり抉られたから、この映画の記憶は早めに忘れることにする。
それと答えに悩む時間すら惜しむ私が、この映画に152分間費やしたことに対するお気持ちはお察しの通り。
ロアー

ロアー