MotelCalifornia

落下の解剖学のMotelCaliforniaのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.2
倦怠夫婦モノ?格差夫婦モノ?法廷モノ?Tarみたいな権力を持った女性による支配モノ?親子関係モノ????
いろんな側面を持ち、答えは出さず、真実も見せない、観客に考えさせる映画。
上手い…

互いの母国語が通じないため、英語でコミュニケーションを取る夫婦。息子は幼い頃に父の失態(と推察される)事故で視覚を失っている。スイスとの国境間近、フランス・グルノーブル近郊の山合いの山荘に3人で暮らしている。息子の障害や立地のせいか、学校には週に2日だけ通い、残りは教員である父が勉強をみているらしい。
著名な小説家である妻のことを論文のテーマにするという女子大生が、降り積もる雪の中、山荘を訪ねてくるところから話が始まる。
階上にいる夫の爆音スティールパンによる妨害で、学生のインタビューは早々に打ち切らざるを得なくなり、カメラは彼女と共に外に出ていく。そのまま、犬を散歩に連れ出す息子を追うのだが、彼らが帰宅すると、家の前で血を流して倒れている父親を発見するのだった…。

手際よく何が起こったかを見せていく(あるいは見せないというべきか)上述した序盤は目が離せないし、夫殺しの容疑をかけられた妻が裁判台に立つ中盤以降は面白すぎて見入ってしまったが、法廷に入るまでのシーンが眠たくなった。。

旧知の男前の弁護士を呼んだときもそうだし、序盤の女子学生とのシーンもそうだけど、妻は常になんか危うさがあるというか、カンタンに他人と性的な関係を結びそうな空気を出して、みている側をハラハラさせる。いまキスしちゃダメだよ!とか、何度思わされたことか笑

そんな風なフィルターで彼女を見ていると、法廷で検事や証言者が言うことに納得度が高まり、この女…って思ったりもするんだけだけど、異国で慣れない言語での裁判に疲弊しながらも毅然と意見を述べたりする姿を見てほだされたりもして。

完全に裁判員になった気分で、やったのか?やってないのか?と気持ちが揺れる揺れる。そんな中、幼いながらも聡明な息子が証言台に立ち、話す内容に心を打たれた。
ただ、彼もまた真実を「見て」いる訳ではなく、信じたいことを信じているにすぎないのでは、とも思わされ…。

そんな感じで、観客をとにかく揺さぶってくるし、真実がどこにあるのかは見せない明かさないというスタンスに翻弄されながらも、面白れ〜!ってドキドキする、あっという間の二時間半だった。体感90分。

夫が録音していたという夫婦喧嘩のシーン、法廷で鳴り渡る音声から、過去の回想にシームレスに繋がるんだけど、喧嘩がヒートアップしてくると、再び音声のみの法廷シーンに切り替わり、やはり核心部分は見せない演出がとても上手い。
あの喧嘩、あんだけでかい声でやってるんだから同じ家にいる息子には聞こえてたかもしれないよね。しかも、息子は視覚がない人だから、観客と同じく「見る」ことはできていないんだ…。

深読みすればするほど、よく書けている脚本。さすがはアカデミー賞脚本賞ノミネート。さすがはパルムドール。

ザンドラ・ヒュラー、アカデミー主演女優賞ノミネートですが、ワンちゃんにも賞をあげて欲しいです。あれが演技だなんて…。どうやって調教するの⁉︎すご。
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