tagomago

落下の解剖学のtagomagoのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.5
抜群に面白い。父親の死は転落死か殺人か、目撃者は視覚障害のある息子というあらすじだけでも目を引く。確かにミステリを期待してしまうがスムーズに法廷劇へと移行していくのが面白くて気にならなかった。魅力的な謎を提示できているという点ではミステリとして成功していると言いたい。自分の中の有罪無罪の天秤が証言ごとに揺らぎ続けるのが面白かった。ただ、凶器が不明の点で検察側の旗色が悪い。例えあのまま検察側に都合のよいストーリーになったとしても有罪になるのは難しいとは感じたが、話に引きこまれる緊迫感は持続したままだった。どの登場人物にも感情移入できないからより中立的な立場で見れて、まるで裁判員と同じようにジャッジする位置に収まったのが自分の中で面白かった。

法廷劇ならではの怒涛の台詞量にくらくら。裁判の決着はつくが真相は不明のまま。映画的にもそのことはどうでもいいことだとあえて放棄している。人間は信じたい情報を拡大解釈してそれに都合のいいストーリーを肉付けしていく。自分にも当てはまるところがあるなとうんざりさせてくれる。真実がどうというよりもどのように良い印象を持たれるかという裁判の本質を映画で突いている。

結局何を考えているか分からなかったザンドラ・ヒュラーの演技が絶品。彼女の立ち振る舞いを見て観客はジャッジせざるを得ないのだが決定的な何かは掴めさせなかった。
発狂というには言い過ぎかもしれないが、うるさいと思った場面が2箇所あって50Cent「P.I.M.P」(インスト)が大音量で繰り返し流れる冒頭といつまで終わらない夫婦喧嘩。いい加減やめてくださいと言いたくなった。それぞれの国、仕事、男と女。かなり露悪的。
tagomago

tagomago