カシ

落下の解剖学のカシのネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

法廷を中心に淡々と殺人事件を追っていく映画で、逆転裁判やミステリ小説のようなドラマチックなどんでん返しはないのだけど、ヒューマンドラマとして非常にリアリティがあり、よくできた作品だと思った

冒頭からなぜ?がたくさんあって引き込まれた
なぜ来客がいるのにサミュエルはこんな大音量で音楽を?なぜサンドラはそれを注意しに行かない?なぜサンドラは自分に対する質問を避ける?など

主人公サンドラが本当に配偶者サミュエルを殺したか殺してないか、わからないまま話は進み、結局最後まで明確な説明をされることは無いけど、劇中で弁護士のヴァンサンが言っていたように(観劇者である我々含め)当事者や目撃者以外は証拠を集めて事実を想像するしかないし、その上でなるべく主観的な想像を排除して考えるしかない 
そしてマージが言っていたように、結局どっちが正しいのかわからない時は、自分で正解だと思う方を決めなければならない

弁護士や検察は第三者がそれをどう見るかを考え、誘導していくしかない 殺したか殺してないか、は(極端に言えば)どうでも良い、弁護側や検察側はそれぞれの仕事をするしかないのだから 

そのあたり非常にリアルで、それはそうだよな…と思った 我々観劇者も陪審の一部のよう

わたしを含め、茶の間はそこにストーリー性やドラマを求めすぎなのかも フィクションやミステリにおいては勿論その方が面白いんだけど、現実においても該当するかというとそうではなく リアルな登場人物の立場を考えさせられた そういう意味でこれはミステリ映画ではなく、冒頭に述べた通り夫(父)の死によって裁判を経験することになった一家族のヒューマンドラマだと思う

サンドラも完璧じゃない人間で、でも人ってそうだよな、完璧な人であることを求める方が難しいし…その点も非常にリアルだった そりゃ自分に明らかに不都合になるとわかってることは黙ってるよな…口論とか浮気とかネタを頂戴しちゃったこととかさ

ただ異国に長期間暮らしたことのある人間としては、ケンカのシーンでサンドラが語ったことにワカル…となってしまった
彼女にとって異国の地で友人知人もなく暮らすことを余儀なくされ、しかも非常に辺鄙な土地で(しかも寒くて!)、第一言語を喋れず、割と得意な第二言語を使ってコミュニケーション取ろうにも公式の場では第三言語を強要され、てするのはきつい
思ったままを言語で表現できないってものすごいストレスだから… わたしから見たらあのレベルのトリリンガルってだけですごいですが…

息子のダニエルに裁判前の最後の週末は1人で過ごしたいと言われて、車の中で泣いてしまうサンドラ、痛々しかった
迎えに来てくれるヴァンサンがいてくれて良かったと思った

ダニエルはダニエルで、視覚障害ゆえか秀でた聴力で懸命に裁判を傍聴し、知らなかった家族の事実がどんどん第三者によって暴かれていき、しまいには泣いてしまう、すごい痛々しかった 演技力よ…

しかし11歳なりに考えてアスピリンを犬のスヌープ(今気づいたけどSnoopDogのシャレ?笑)に飲ませたのだろうけど、無茶しすぎよ!犬大事にして!!!脚本的にはあのくだりが、何を信じたら良いかわからないダニエルにとって心を決める一要素となったのは間違い無いのだけど、犬は大事に…!!!

そしてヴァンサンがサンドラに昔惚れてたというフラグがあったので、最後はくっつくのか???とも思ったけど、あすこで安易にキスさせなかったのも非常に良かった!!

あとヴァンサン!!!!非常に良い役だった キュートだしフワフワグレイヘアだし仕事をきちんとするし、ご飯作るし法廷でのお衣装は似合うし!!!作画はオノナツメ!!!
検事が意地悪だった分、めちゃくちゃ良い人に見えた この辺映画の主人公目線バイアス入ってるかもですが

フランスの法廷ではイギリスみたいなカツラを被らないんだなあと思った
あと弁護士の持つ書類ってめちゃくちゃ重要そうなのばかりと思うのですが、風の強い日のテラス席でお食事しながら広げちゃうとこ、さす仏!笑

証人喚問されてた学生が、検事の誘導にのらずにキッパリ証言していたのは見ててスカッとした

とにかく犬がかわいかった 名演技 犬がいるとどれだけ救いになることか

無罪を勝ち取っても、そこにご褒美があるわけでもなく、いずれにしろ人生は続くんだよなあ…そこも非常にリアルだった
フィクションの物語は勝ったら終わってしまうことが多いかもだけど 現実ではその後も人生は続く 勝っても負けても そうだよなあ…
カシ

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