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落下の解剖学のt0moriのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.3
先のアカデミー賞で脚本賞を受賞した本作だけど、脚本よりも演出に唸った。

ファーストカット(ピーター・メダックの『チェンジリンク』みたい)から序盤シーンで一気に惹き込まれ、終始、観客は虚実の間を揺れ動く。
特にクライマックスのリップシンクはお見事。あの1カットだけで観客が虚実の揺れを大きくし、それでもダニエルが決断した「真実」の意味を観賞後まで深く味わせられる。素晴らしい演出だった。

『オッペンハイマー』がどれほどのものか楽しみにしているけど、監督賞はこっちだったんじゃないかなあ、と思わなくもない。(現時点では)

サンドラの二か国語演出は、頭では理解出来るものの、ダイレクトな実感が伴わず残念。
ヴァンサンの佇まいも良かった。

但し、引っかかった所も一ヶ所。
クライマックス前の犬にまつわるとある試み、あれ、どうやって撮ったの?ってくらい見事なシーケンスではあったけど、試す必要があったんだろうか? あそこだけ、どうにもダニエルの行動が解せない。仮にアレが同じ物と立証出来ても、それがどの様に使われたかを知る手立てにはならないのだから、無意味に思えてしまう。その後の会話で説明されてはいるんだけど、ダニエルの聡明さを思うとチグハグに感じてしまった。
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