このレビューはネタバレを含みます
謎の転落事故によって死んでしまった夫。状況的に妻の容疑は避けられず刑事告訴されるのだが、法廷を通じて次々と新事実が明らかになっていく。王道ミステリーかと思いきや、かなり上質な法廷会話劇×終わってる夫婦モノ(『ブルーバレンタイン』的な)といった感じ。
お互いの嫌なところがたっぷり出ている夫婦喧嘩のシーンなんかは固唾を飲む緊張感を味わえるものだったりするのだが、どちらかというと随所に配置されている「裁判及びその反応への皮肉」に作り手は比重を置いてる印象があった。
今作における裁判は、全体的に真実を求めているというよりは勝敗しか気にしていない感じ。ネチネチした検事の尋問はもはや醜聞趣味的な態度と受け取られても仕方がないものであり、それがまだ幼い息子にまで至っているのだからタチが悪い。そういった懐疑はなにも原告サイドのみならず、主人公被告側の弁護士も証言を脚色するアプローチから透けて見えたりもしている。
勝敗としては最終的に無罪となる被告勝利なのだけれど、夫の死を導いてしまったという点では「他殺or自殺」はもはや大きな違いがないのでは?とモヤってしまったりもする。そもそも真実もよくわからんままだし。判決後あんなに飲んでないでさっさと息子のもとに帰ってやれよとかも気になり出してなんかスッキリしない。
多分この釈然としないアイロニックな感じそのものが作り手の狙いなんだと思う。ただ終盤はちょっとやりすぎで、ワイドショーで「小説家の妻が殺した方が自殺より面白い」とコメンテーターが発言するシーンあたりから、現実でも確実にボコボコにされるであろう行き過ぎた露悪的描写にドヤってしまう青臭さみたいなものを感じてしまい少し冷めてしまった。こんなこと言うのはネットジャンキーくらいなので取るに足らない。下衆な発言を大衆の総意のように厭世的に粒立てて、それを見下すような芸術家様態度はやっぱり苦手です。
とはいえ、前述した喧嘩のシーン及び息子の気持ちになったときの重苦しい追体験は特筆すべきものがある。「相手が最も嫌がる言葉を避けて会話する」「子どもにガチの内情は見せるべきではない」などのシンプルな教訓は強く残った。
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爆音の「P.I.M.P」によって瞬時にわかりやすくストレスフルな状況を伝える冒頭が見事で印象的。劇中の音楽がそのままシームレスにオープニングに繋がるオシャレな感じは「ああヨーロッパの映画観てるなあ」という独特の高揚感があった。