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枯れ葉のmzkのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
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冒頭で心を掴まれる。ヒロインのアンサは労働をこなして、自宅に帰る。ラジオはウクライナの現状を伝える。日常の疲弊と世の中の憂さが重なる感覚は誰にでもあるのではないだろうか。軽妙なやりとりと粋な台詞は健在で、皮肉とユーモアがたっぷりだが、そこでも時折伝えられる報道が現実を見せつける。ただ、そんな世の中だからこそ、ホラッパとアンサの不器用な恋愛の尊さ、大切さが浮かび上がる。
アンサははっきりと「ひどい戦争」と言う。これを言うためにカウリスマキは戻ったのだろうと思う。彼らは一度は職を失い、収入も減る。それでもデートには花束を買い、いつもより少しだけ贅沢を食事を作り、殺処分を待つ野良犬を助ける。映画、音楽、洋服など、慎ましくも文化を享受する人間たちの姿はカウリスマキの作品の魅力だ。
私の暮らしは困窮とは言わないが、裕福とは言い難い質素なものだ。カウリスマキの作品で描かれる些細な幸福の瞬間は、私の生活に希望をもたらす。本当に救われる思いだった。
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