アキ・カウリスマキ監督作は初見。シネフィルの方々が2023年の映画ベスト10に入れていたので、気になり年初1本目の作品として鑑賞。
フィンランドの労働者階級の男女2人の出会いを描いた、とにかくシンプルで過剰な演出のない引き算の映画。
劇中に出てくるカレンダーには、2024年の文字があるのに、スマホは出てこず(ガラケーはある)社会情勢はラジオで聴いて知るという、なんともノスタルジックな世界観に妙に引き込まれてしまった。
スーパーで品出しの仕事をしているアンサと、サンドブラスト職人のホルッパという孤独で地味な男女のラブストーリーの話なのだが、お互いがとにかく不器用だし、コミュ障だしで、連絡先の交換すらまともにできないというなんとも焦ったい始まり。
アンサは仕事をしょうもない事で辞めさせられ、しまいには電気も止められそうな始末。
ラジオで流れるのはロシアとウクライナの悲惨な戦況ばかりで気が滅入る。
ホルッパは酒浸りで、仕事中も酒瓶を隠し持って飲むようなアル中。
どちらの主人公も絶望的に人間的魅力がないが、そんなどうしようもない主人公を見捨てず、味方になってくれる個性的な同僚の人間的温かさを感じる描写にジンワリ心を掴まれてしまう。
アンサもホルッパもセリフがほとんどないので、それぞれの心理描写を様々なジャンルの楽曲で代弁するのが独特の演出で、特に印象的だったのは、フィンランドで一番売れているという姉妹のポップデュオ「Maustetytöt(マウステテュトット)」
の楽曲をバックに酒断ちを決めるホルッパのシーン。
曲の内容が陰鬱としている(日本のアイドルとは真逆で、愛想も抑揚も無く真顔で歌う)上に、この曲で決意を固めるホルッパのなんともシュールな絵面に笑いが込み上げてしまう。
劇中映画でジム・ジャームッシュ監督の「デッド・ドント・ダイ」を引用したり(突然のアダム・ドライバーに笑いそうになった)と、とにかくユーモアのセンスが独特!
この作品のテーマは、「見捨てない」事なのかも…と保健所行き寸前のワンコを拾って飼い始めるアンサの行動でなんとなく察する。
ウクライナとロシアの戦況について報じるラジオを劇中で何度も流すのも、労働者階級で、自分の生活でさえままらならない身の上でも、他者を「気にし続け」「見捨てない」事の大切さを説いているような気もした。
「同じ鋳型で作られたダメ男」を、なぜか見捨てられず、気にかけてしまう、そんな"ダメンズウォーカー"の女性にもおすすめの1本である。