カッパロー

枯れ葉のカッパローのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.6
これでいい。恋愛ってこれでいいんだよ。

飾り気の少ない恋愛映画。主人公の二人はいたって普通の人だ。華々しい職業についているわけでも、人並外れた美貌を持つわけでもない。でも、いやだからこそ、彼らの心の交わりはリアルに映り、感動を呼び起こす。丁寧に作られた脚本は、奇跡の介在する余地を残さず彼らの出会いが必然的なもののように感じさせてくれる。連絡先を書いた紙、お酒でいっぱいのボトル、映画館の前に散らばった煙草...彼らの関係を進めてくれた数々のギミックには全て理由がある。

映画を装飾する美術も素晴らしかった。予告編でも強調されていた家での食事のシーンは、恋愛映画史に残るものだろう。二人が奮発して買った食器と花がアクセントになり、なんてことない家の部屋が美しい感情の溜まり場になる。他のシーンの色が抑えられているからこそ、観客にとっても特別なものとなっている記憶に残る。そう、まさに主人公たち二人にとってもこの食事が特別なものだったように。

音楽も良かった。Karaoke、生バンド、ジュークボックス、ラジオ、様々な形で彼らの恋愛と心の交わりを彩ってくれる。ガールズバンドの生演奏の曲、良かったなぁ。悲しくもあり、力強くもあった。

この映画で唯一浮いていたのは、ウクライナのニュースだろう。が、これも僕は好きだった。この演出は、もちろん政治的な連帯を示すのが第一目的だと思う。ただその結果、この物語が我々の住む2022年以降の世界にあるということを突きつけ、観客に近しい感情を呼び起こさせるという思わぬ副次効果を醸し出させているように思えてならない。数十年後にこの映画を観た観客がこの戦争に思いを馳せる姿を夢想してしまった。
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