May

関心領域のMayのネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

ここに描かれているのは、至って平凡な家族の風景である。子育て、晩餐や洗濯といった家事や、夫の昇進がどうとか転勤するなら早く言ってよといった会話。一見ありふれた日常、そこを徹底的に映しているからこそ、ずっと鳴っている音の”非日常さ”が際立ってくる。この装われた平穏さが、隣の残虐性を濃くさせる。まさに黒澤明が編み出した「対位法」を終始やり続けているかのような凄まじさ。現代に戻して、あの静けさを入れ込むあたりがとても秀逸である。
そして、突如差し込まれるサーモグラフィー。監督によると、あれはエネルギーとして捉えていると語っていた。まさにこっそりと食事を与えている彼女のあの熱量を表現した見事な手法に思った。

アウシュビッツのそばで生活の拠点を作り上げた妻の感情がドラマの核になっているのはなにか皮肉的に感じた。彼らの生活は虐殺のもとに成立しているからだ。これは資本主義社会にも重ねることができるのではないか。天国と地獄は同時存在していることを痛感する一作だ。

そして他にも印象的だったのは、画の良さ。
fixで撮られたシーンの数々は、誰かがピックアップされることはない、とてもフラットなものばかり。立ち位置すらも精密に決められたそれは、ずっと美しかった。
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