アムステルダムズ

関心領域のアムステルダムズのネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

アウシュヴィッツ収容所の隣に暮らす、施設責任者とその家族の物語。
所長のルドルフとその妻ヘートヴィヒを中心に、ただひたすらありありと日常シーンが描かれていく。しかしここはユダヤ人虐殺の現場であるアウシュヴィッツ収容所の真隣。ご飯を食べているときも、洗濯をしているときも、子供たちが遊んでいるときも、お化粧をしているときも、その背景では怒声と悲鳴と銃声が耐えない。中にはルドルフの子供と変わらない子供の泣き叫ぶ声もある。死体を燃やす焼却炉の灯りは、夜通しルドルフ宅を照らし続ける。
しかし家族はそのようなことに一切気にも留めることなく、平然と日常生活を続けている。悲鳴と銃声がこだまする隣でプールで遊び、焼却炉の灯りの横でぐっすりと眠っているのだ。

途中ヘートヴィヒの母親も同居を始め、ユダヤ人にもそれなりの差別意識を持ってはおり、住環境にも好意的なのだが、隣から漏れる悲劇のノイズに耐えかね、黙って去ってしまう。
中盤の終わりごろにルドルフの転属が決まり、住環境を手放したくないヘスと離れ離れになってしまう日常のありふれた悲しみ、という演出がさらに皮肉。そんな話をしている横でも、もっととんでもない悲劇が繰り返されているというのに。

そして最も恐ろしいのは、一般市民であるはずのヘートヴィヒや子供たちにもアウシュヴィッツの残虐性が伝播していることだ。ヘスはユダヤ人のメイドに冷たく当たり、弟の口は自然と悪くなり、兄は弟を閉じ込めるイジメを始めてしまう。

異常な環境のまま映画は終わるのだが、ラストの場面転換には驚いた。現代のアウシュヴィッツ収容所が突然映し出されるのだ。現代のアウシュヴィッツ収容所があのような展示をされていることを、どれだけの観客が知っていただろうか。そして今も世界中で繰り返されている戦争と虐殺の悲劇を、どこまで知っているのだろうか。観客自身の「関心領域」も試さんとする、ドキリとさせる演出だった。

しかし全体的には日常生活のシーンがほとんどなので、映画としては退屈な印象は否めない。強いメッセージ性とおどろおどろしい不協和音のBGMだけが残る不思議な映画だ。