Pinch

関心領域のPinchのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.8
この国では、かなり崩れてきているとはいえ、自分の家庭はいろいろありながらもやはり幸せだと感じている人はまだ少なくはないのではないか。ある女子高生から「おっしゃるように世界規模では悲惨なことがたくさん起こっているのは分かりますけど、私の家ではそうではないので…」と言われたことがある。だが、この映画のように、敷居を隔ててとんでもないことが平然と起こってはいないか。だってあの声が。そのとんでもないことに関心を持たなければ、それは起こっていないことに等しい。あなたの家庭の幸せは、ルドルフ・ヘスの家庭の幸せと同じではないのか。ヘスの領域から覗き見える煙突の煙を自分の領域外にある取るに足りない現象として無視すれば、その原因となる炎に火をくべていることになる。それでいいのか。

映画を観たあとで街の繁華街を歩きながら、行き交う雑多な人々を見ていると、ある考えが頭をよぎった。「このうち200人程度が謂われのない罪でどこかの公共施設に連れて行かれ消滅させられるとか、今までは全く想定しなかった無理無体な事態が起こっても不思議はないな」誰もがする側かされる側のいずれかを強要される。それぞれの領域外に関心を抱いてはならない。そうなるときはそうなるのだろう。もうなっているとも言えるが。そのようにして歴史は繰り返されてきた。「自分は関係ない」ということは決してない。そして、誰もが心の奥底では分かっているのだ、あの不気味な低音の正体が。

映像表現としては不自然な感じがつきまとうように感じた。原作は読んでいないが、確実に文学向きのモチーフであり、映画では超えることのできない力を持つ優れた小説なのだろう。
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