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金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキストのPinchのレビュー・感想・評価

3.8
二人のあの写真(原画の方)は、いつの世にも存在する姑息な支配層と愚鈍な大衆への挑戦状であり、今見てもそれなりにスキャンダラスでカッコいい。社会正義と賢さを備えたボニー&クライドまたはシド&ナンシー。政治目的に集中したジョン&ヨーコ。それはともかく、この命がけの反逆的な政治ロマンスからは自分なりに学ぶことがあった。

金子ふみ子が獄中で書いた『何が私をこうさせたか』を読むと、これほど真っ直ぐで分かりやすく魅力的な文章は稀だと感心する。特に最終章は素晴らしい。つらい生い立ちの末に短い人生にピリオドを打つこととなったが、革命家の純粋な心を知り、彼と共に生き共に死のうとした彼女は幸せだったとも言える。この時代にはこういう純粋さが守られる心のスペースがあった。今はというと、このような貴重なものはほぼ存在し得ない。極言すると、存在する前に抹殺されカリカチュアと化す。朴烈とふみ子は貧しく厳しい時代を生きたが、同じように私たちとて非常に難しい時代を生きているのだ。

偶然生き延びて釈放された朴烈は、現代のこの抹殺的濁流に飲み込まれ右往左往したようだ。一方、ふみ子はこの影響を受けずに今も輝き続ける。生き続けるということはつくづく困難でつらいものだな。
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