メザシのユージ

関心領域のメザシのユージのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.5
2024/05/24
立川
(29本目)

「シンドラーのリスト」「サウルの息子」「ヒトラーのための虐殺会議」を観た後にこの映画を観ると、「関心領域」の恐ろしさがさらにわかる。

主人公の所長ヘスは、アウシュビッツ収容所の事務方として非常に優秀で、ユダヤ人を効率よく殺し、死体を処分する方法を常に考えている。仕事として命令だと認識すれば、人はどんな残酷なことでも悪意なく実行できる。ヘスはまさに「凡庸な悪」の象徴。

この映画には直接的に残酷な場面は出てこないが、家族が暮らす家の壁の向こうでは煙突からは常に死体を燃やす煙が出ており、悲鳴や銃声がずっと聞こえてくる。毎日、強烈な臭いが漂っていたと思う。銃声や悲鳴は耳を塞げば防げるが臭いは防げない。そんな観客で人は普通に生活できるのか?

アウシュビッツの隣で暮らすヘスの家族は、アウシュビッツの存在を全く気にしない人、そのプレッシャーに潰される人、気にしていないふりをする人の3タイプに分かれる。これは映画を観る人にも当てはまり、海の向こうで戦争が起きても平気な人や心を痛める人がいる。その差はそれぞれの関心の差であって「関心領域」は現代にも通じる物語でもある。

最後にヘスが自分の名前の着いた作戦が実行されることを知って嘔吐しそうになるのは、その残酷さに耐えられなくなったからだろう。映画はアウシュビッツ収容所の跡地で終わる。

映画冒頭で、ナチスの妻達が「カナダに行った」と言うけど、これはユダヤ人から奪った衣服や貴金属をまとめる施設の「カナダ」のことで、ポーランド人が非常に豊かな土地であると見なしていた国「カナダ」にたとえてそう呼ばれてたのよね。