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関心領域のtsuyocinemaのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
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アウシュビュツ収容所の隣で幸せに過ごす家族がいた。家族の住む邸宅の隣の建物では煙があがっている…

「関心領域」とはよく言ったもので本作を見事に体現している。それはアウシュビッツに住むドイツ人が収容所で起きていることを関心領域外に追いやっているように、我々の関心領域についても問ている…

そんな本作は非常に音が特徴的だった。
アウシュビッツに建てられた邸宅では日常的に阿鼻叫喚の悲鳴がまるでBGMのように聞こえてくるのだか、その声を日常的すぎるからなのか誰も気にしない。関心領域から外れているのだ。

物理的に高い壁で隔たれた邸宅ではアウシュビッツを見ようとしないと見れない(焼却された狼煙)しかし、悲鳴は届いているのだが、ノイズキャンセルのように入ってきてない…
観客である我々も見ようとすれば見えるもの、声として聞こえるものをノイズキャンセリングして関心領域から外していないかハッとさせられる。

※友人から教えてもらったのだが、原作では音ではなく、匂いが音の代わりとして作用してるらしい。
映画化にあたりメディア特性を鑑み訴求する感覚を変えたのは見事!


音だけでなく視覚表現も素晴らしく、計算されて固定化された視点にる邸宅や庭園、川沿いの自然、街並み、パーティ会場の屋敷…シークエンスはそれぞれ美しく絵画的(非日常的)である。しかし絵画的(非日常)にすることで、それは実在する現実を構成するノイズを除去していることに気付かされる。
現代のドイツの歴史館での収容所の負の遺産が絵画的に映し出されるシークエンスが日常/非日常の対比かつ効果的で素晴らしかった。
※オープニングと途中にあった黒と赤一色になってドローンがかかってる映像やファンタジックな挿入映像のアート演出も日常/非日常の効果を意識してなんだろうな

現実でノイズキャンセリングしてしまっているであろう感覚を補正して、自身の狭まった関心領域を拡張させるためにも多くの人に観てほしい作品。
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