一人旅

関心領域の一人旅のレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.0
第96回アカデミー賞国際長編映画賞。
ジョナサン・グレイザー監督作。

英国の作家:マーティン・エイミスによる2014年発表の同名小説の映画化で、強制収容所の隣で暮らす所長一家の日常を描いた異色のドラマです。

二次大戦末期の1945年を舞台に、ポーランド南部・アウシュヴィッツ強制収容所の隣で暮らしている初代所長:ルドルフ・ヘス親衛隊中佐とその妻:ヘドウィグら家族の日常を描いた異色作です。鉄条網が備わった塀を挟んで、所長家族の平穏な光景と塀の向こう側で行われているユダヤ人の大量虐殺という日常と非日常がほぼゼロ距離で隣り合わせとなった世界が異様な感覚を現出しています。塀の向こう側の非人道的な行為は直接的に描写せず、時々聞こえてくる看守や囚人の叫び声、煙突から上がる黒煙等を通じて塀の向こうの地獄を匂わせる演出が他の収容所映画には見られなかった異彩を放っていますし、それと同時に、想像を絶する虐殺行為のすぐ隣で穏やかな日常を送る所長家族の目線に徹することで彼らの日常感覚を観客に共体感させる効果を生んでいます。

塀の外側の凄惨な地獄へは関心を向けず、自分たちの穏やかで恵まれた生活を保つことに没頭する一家の日常を淡々と描いて、“慣れ”と“無関心”という感覚麻痺の状態に陥った人間の冷淡な本質を残酷に浮かび上がらせた異色の戦時ドラマで、所長の妻を演じたザンドラ・ヒュラーは『落下の解剖学』に続き2023年が女優の当たり年となりました。
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