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関心領域のmasayaのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.1
ユダヤ人収容所と壁一つ隔てた、ナチス高官一家が住まう邸宅。その文化的な暮らしは、向こう側と無関係かのように続く。でも破裂音が、叫び声が、そして煙突から上る煙がそこで起きていることを突きつける。知らないのではなく、無視しているのだ。TVニュースの前の私たちのように。

そもそも描かれる家族ははじめから無関係の市民ではなく、収容所で地位を築き、ユダヤ人から生命と財産を奪って生きる純然たる加害者なのだけど、直接手を下す描写はなく、普通の生活を送っているだけに見える。だから、彼らの麻痺した感覚に観ているこちらまで合わせてしまいそうになる。

強者の論理による見かけの平和、何かに蓋した上での安定に騙されて、見ないふりをする、自分の関心の外に追いやってしまう。そんなことが度々ないか。映画の家族に憤りながら、ニュース映像に嘆きながら、次の瞬間には忘れてしまう。壁は加害者と被害者の間にだけ存在している訳ではない。


家族の姿を描きながらぞっとするような冷酷さが通底している映画の中で唯一温かみを感じさせるのが、収容者の為に命がけで食料を届けるポーランド少女と彼女が配る小さなリンゴの実。言葉ではない、サーモカメラの眼に映った熱による血の通った生命描写が印象に残る。
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