やまだ

関心領域のやまだのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.9
地獄みたいなアンビエントミュージック
もうほぼホラー映画だった

鳴き声、泣き声、絶叫、怒号、銃声
なにもかもが環境音としてただそこにあるだけ。
誰も気にもとめず日常として享受するどころか、(一部を除き)まるで楽園かのようにその場所を愛する姿にただただ違和感と不快感と恐怖しか感じなかった。

登場人物はきっと善良な市民の一人なのだろう。
当時の人間がどのような倫理観を持ち合わせていたのかは分からないが、どうしても今の感覚で見てしまうと終始「狂気」しか感じない。

アウシュビッツ強制収容所で何が行われていたか、何がどのように行われていたかについてそこまで造詣が深いわけではないが、作中に聞こえる音や見える景色が何かは分かる。
歴史上何があったかを知った上で見ていると遠くから聞こえてくる音楽や汽車の煙が何を指しているのかも分かって理解が深まるが、ダメージもデカくなる。何これ怖すぎ。

他にも意図的にイマジナリーラインを越えるシーンをポンポン挟んで不快感を与えたり、BGMなんてほとんどないのに急に不協和音を流してきたり。
観客を翻弄させて、とことん嫌な気持ちにさせて、最後のあれ。
「他人事」から「自分事」へ急に引きずり込む演出がとにかく怖い。

それこそ「関心領域」の外側にあるそれを眺める我々に対して問いを投げつけるかのようだった。
「これ他人事じゃねぇからな?」と
パッと思いついた範囲ではブラック・クランズマンのラストを思わせるようでドキッとした。

たとえとして適切かは分からないが、誰かが食肉を加工している事実から目をそらして「お肉美味しい~」とヘラヘラ生きている我々を第三者的視点に立って観察するとこのような気持ちになるんだろうなと思う。

全体を通してエンタメをエンタメとして絶対消費させない意地悪さというか、反戦や当時のナチスの残虐性を否定するアプローチとして最大限この設定を活用してやろうという静かなエネルギーがあった。
友情、愛情、悲劇、等々並べ立てて、涙を流して「良い映画だったね」「戦争は良くないね」と言わせる映画は数あれど、そうしたくなかったのかなんなのか、それらとは一線を画す作品になっていた。

良い意味で「二度と見たくねぇ」と思わせる印象的な映画だった。
やまだ

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