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関心領域のsinginggizmoのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.0
一度鑑賞しただけでは理解できない事が多く、2回鑑賞して、パンフを読んで、ようやくわかってきた。
画面からの情報量がとにかく多い。
でも、意図や意味を積極的に読み取ろうとしないと、ナチス将校(アウシュビッツ強制収容所所長)であるルドルフ・フェルディナント・ヘスとその家族の淡々とした日常にしか見えなくなる。
2回目の方が確実に解像度があがり、監督の意図するところも腑に落ちたように思う。

まるで彼らを観察するような視点で撮られた冷たいカメラワークが印象的。
レジスタンスの少女をサーモグラフィー映像にしたり、とても実験的な映像になっている。
一度目は、わざわざサーモグラフィー映像で表現する意図がわからず困惑したが、レジスタンスの少女の行動は、このおぞましい状況の中で神聖な一筋の光であり、それをエネルギーとして捉えてこの手法にしたという監督の意図には納得し、同時に感銘を受けた。
あえて、異質なものとして映しているのは大正解だなと思う。
絶対にエモーショナルにはしないという意思が感じられ、ずっと冷静な視点で見続けるよう私達にも要求されているようだった。
何気なく繰り返されるえげつない搾取や、虐殺の片鱗が、あまりにもさらっと描写され続ける。
収容所の銃声や、叫び声も聞こえてくるのだが、ふとした瞬間にその音に意識がいかなくなっている自分に気づく。
慌てて、隣が収容所であると意識する。

ヘス夫人は、全て搾取の上に成り立っている自分達の豊かな生活を、母親に誇らしげに披露する。
母親もまた、近所のユダヤ人が最近アウシュビッツ収容所に入ったことを、ただの世間話として話す。母親は、後から収容所の隣に住むという異常性に気づき、耐えられずに家を出るのだが…。
ヘス夫妻は、ナチス(自分達)がやってることを悪だと認識したうえで目を背け、しょうがなく従っている訳ではなく、むしろ、正しいこと、良いこと、理想的な事として本気で思って積極的にユダヤ人から搾取し、差別し、排除しようとしている。
実際のヘートヴィヒは、元々排他的な思想に傾倒していたようだし、この場所と、この生活こそが自分達の理想だと断言する。
夫の異動が決まり、引っ越すかも…となった時の彼女の剣幕や言葉に嫌悪感を感じる一方で、あまりに自分の事にしか興味がなく、周りが見えていない姿が滑稽にもみえてくる。

普通の人も悪になりうるというけど、そうさせる社会の空気や構造が怖いのだと思う。
人間が排他的になるのは、物質的にも精神的にも相当に追い詰められた時に、生存本能がそうさせるのだろうか?
ひとつの要因ではあると思う。(単なる個人の持論)
ナチスのイデオロギーがドイツ社会のマジョリティになった時、歪んだ思想も正当化され実行されてしまった。
いつでも社会はそのようになりうると思う。
そうなった時に、積極的に加担して利益を得ようとするなどは言語道断だけど、ちゃんとその社会に疑問を持って自分の意思で考えられる教養と強さを持ちたい。
レジスタンスの少女のように、少しでもいいから行動で示したい。

鑑賞後、ジョナサン・グレイザーのインタビューの「私が興味を持つのは、平和、理解、仲直りを訴えること」という言葉が胸に響いた。
特に、「仲直り」というシンプルな言葉の強さと優しさ。
子供が言いそうな甘っちょろい言葉かもしれないけど、圧倒的に真理であり、それを無理だと思ってしまったら世界は終わる。
戦争のニュースをみた時、「自分にはどうしようもないな、難しいな…」という気持ちでもやもやするが、歴史や背景はできる限り勉強して理解を深めながら、仲直りしてほしいってまずは素直に思っていきたい。

監督の他の作品も気になって、「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」を観てみた。
全く違う物語ではあるが、説明の少ない演出や、実験的な映像、観察的な視点が今作と共通してるなと思った。
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