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関心領域のsoloのネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族がいたーーー。

思ったほど説教臭いなーは感じなかったです(小並感)
A24ぽくアートフィルム(ではないけど)、そんな雰囲気。
残酷さより、見えている映像と見えてない背景(音(明らかにおかしい環境音、あと赤ん坊がずっと泣いてる)、匂い、空気(でもちゃんと花壇の花は咲くんやな))のミスマッチさで"あぁ、隣で人間が虐待されたり、死んでるんだな"と感じる、……私達は。

暮らしている家族は思うに屠殺場の隣で暮らしている牧場主みたいな感覚なんじゃないかなー…
現代の感覚で行けばアウシュビッツは非人道的収容施設だけど当時のしかも軍やナチス側のTHEゲルマン民族みたいな人間からしたらユダヤ人は同じ人間じゃないからな。収容施設に人間を収容してるんじゃなくて家畜を処分している感覚なんだと思う。
だからガス室送りになった人の遺品を家庭で山分けしてるシーンがあったり、「〇〇〇さんの家のカーテン、私が欲しかったのに。別の人に取られちゃったの」みたいなセリフがなんの気なしにあったり、子供が布団で収容者の歯を集めて眺めてたりするねん。牛の角とかレアものゲットした感覚なんやろ…あれ多分。

列挙すれば今の感覚で「え?蛮族かなにかかな?」みたいな生活をしている風な彼らですが、住んでいるのは清潔で広く美しい花の咲く庭(温室付き)の庭がある家であり、「またイタリアのスパにいきたい」と、海外旅行にも行けるようなナチュラル華やかな生活。超SNS映えする"皮"に包まれている。
すごい歪に感じるかもしれないが、暮らしている彼らは、軍人関係者一家だから残酷だけど優雅な生活を享受できる精神性を持っている特別(やばい)な人間たちというわけではない。こ れ が 普 通 だ っ
 た ん だ 。

この生活に至る前のドイツは第一次大戦の大敗ゆえの極貧状態にあったわけで、不平不満が渦巻くそんな中にヒトラーが現れたわけで、そして今にいたるわけで。

つまりこの生活は彼らからしたら、不断の努力の末に勝ち取った生活、富なんだわ。
極貧のバックボーンを思いながら聞く、奥さんの
「こここそが私達の家よ!理想の環境よ!絶対にここを離れないわ!」
っていう盲信的なセリフは戦争の残酷さを越えて、より身近な薄ら寒さがあった。
…どんな形であれ手に入れた"理想"を守るためなら人はどこまでも残酷になれるし、醜くもなれる。すなわち必死になれる。盲目的に。そんな映画だったナー。
同時に「幸せ」についてすごい懐疑的になる映画だった。一家の手に入れた幸せは美しい庭、家、裕福さ、子供たち…やはり"皮"なのである。人に見せて「どう?素敵でしょう?」と言うことで幸せを実感する様はほんと…空虚じゃん。
実は家も快適なまでに広いわけではないし、結局中に詰まってる生活は"生活"でしかない。すべてがうまく行ってるわけでもないし、ヒトラーの采配で決まる夫の転勤によっても揺らぐ非常に不安定でもある。
そして横では人の焼ける臭いがする、毒物混じりの水が流れてくることもある。
それでも焦がれて焦がれ続ける幸せって何だろう。
幸せの解像度が低い、といえば馬鹿だなーで話が終わってしまうけど人間の想像力なんて所詮幸せに"なる"までしか持たないのであれば、幸せなんて麻薬とさして変わらない刹那的なものでしかないのか。
というかこの感じ、戦争映画というより、現代もまさにそうじゃんかー…
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