このレビューはネタバレを含みます
銃声が聞こえたり、川遊びをしていたら遺骨が流れてきたり。夜中には遺体を燃やす火や煙が見え、異臭がし、灰が降ってくる。そんなことが日常的にあるなかで、ここを夢に見た暮らしと言い、転属が決まった旦那に単身赴任までさせようとする奥様に恐怖を覚えました。収容所の中にいなくても間近で目撃している当事者なのに、恐れや罪悪感を一ミリも感じていない。穏やかに描かれる人の日常がこれほどまでに恐ろしいなんて、さすがA24表現の仕方がすごい。毎晩の赤ちゃんの泣き声は日常のように見えて、収容所による恐怖からくる物なのかもしれない。
国の意向はあくまでもヒムラーヒトラーらによって決められていき、国民全員が納得しているわけではない。その時代を生きなかった私には全てが分かるわけではないけれど、国を変えるほどの行動はできずとも自分にできることをと、いち国民が行動した結果が素直に反映されないの苦しすぎる。立ち入り禁止のエリアでリンゴを積んで、土塀にばら撒くのも収容所で労働しているユダヤ人に少しの食糧を与えるための善意なのに、そこから奪い合いになる音声も聞いてられませんでした。土しかない労働環境に対比するように緑が生い茂る彼らの自宅にも腹が立つ。
終盤、自分のした行為への後悔からのえずきだったのでしょうか。繰り返す日々の途中で残忍さを自覚するも、結局は同じ日々へ戻るしか選択肢が残されていないかのような螺旋階段のシーン。現代のカットにうつった後、積もる遺品には思わず目を背けてしまいました。呼吸が苦しい。けれど見てよかった。