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関心領域のkuuのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.1
『関心領域』
原題The Zone of Interest
製作年 2023年
製作国 アメリカ・イギリス・ポーランド合作
劇場公開日 2024年5月24日
上映時間 105分
映倫区分 G
「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」のジョナサン・グレイザー監督がイギリスの作家マーティン・エイミスの小説を原案に手がけた作品で、2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリ、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞。
出演は「白いリボン」「ヒトラー暗殺、13分の誤算」のクリスティアン・フリーデル、主演作「落下の解剖学」が本作と同じ年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したサンドラ・ヒュラー。

ホロコーストや強制労働によりユダヤ人を中心に多くの人びとを死に至らしめたアウシュビッツ強制収容所の隣で平和な生活を送る一家の日々の営みを描く。
タイトルの「The Zone of Interest(関心領域)」は、第2次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉で、映画の中では強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む収容所の所長とその家族の暮らしを描いていく。

今作品ではジョナサン・グレイザー監督は、アウシュビッツ強制収容所内で起きているイカれた残虐行為を見せようとせず(撮さず)、ただ聞かせようとした。
斬新と云わざる得ない。
なんでも、監督は今作品の音響を『もうひとつの映画』と表現した。
そのために、サウンドデザイナーのジョニー・バーンは、アウシュビッツでの関連する出来事、目撃者の証言、収容所の大きな地図などを含む600ページに及ぶ資料を作成して、音の距離や反響を適切に判断できるようにしたそうな。
また、監督は撮影が始まるまでの1年間、製造機械、火葬場、炉、長靴、当時を正確に再現した銃声、列車、犬、人間の苦痛の音などを含むサウンドライブラリーを作り上げ、撮影とポストプロダクション(ポスプロ、映像制作において撮影後の技術的仕上げ作業の総称)に至るまで、ライブラリーを作り続けた。
当時、アウシュビッツに新しく到着した人々の多くがフランス人やったため、バーンは2022年にパリで行われた抗議デモや暴動から彼らの声を入手し、酔っぱらったアウシュビッツの看守の声は、ハンブルクのレーパーバーンで調達したそうな。
念入り過ぎて脱帽。
扠、先にも書いたように、『音』は今作品にとってとても重要事項であり、サウンドトラックは、物語に欠かせない革新的な要素であると思う。
ジョナサン・グレイザー監督は、ほんま観てる側に『聞け』と云わんばかりに、真っ白なスクリーンに音声を映し出し、その重要性を伝えていた。
この導入部は、一部の映画ファンにとっては長すぎて珍しいと判断され、忍耐力を失って劇場を後にした方もいたとか。
映像は、川辺でのピクニックというのどかな家族の設定で幕を開け、プロットが展開するにつれ、父親がアウシュビッツの司令官ルドルフ・ヘス(第二次世界大戦中にアウシュヴィッツ強制収容所の所長を務め、移送されてきたユダヤ人の虐殺ホロコーストに当たり、ドイツ敗戦後に戦犯として絞首刑に処せられた。)であること、つまり、妻のヘルガを含むナチス・ファミリーが夏の至福の時を楽しんでいることが、歴史に明るければわかる。
ヘスの一家は、ナチスの婉曲表現で強制収容所を意味する "The Zone of Interest "(関心領域)の近くに住んでいる。
一家の家庭生活は当時としては快適で恵まれたものであり、隣で起こっている恐怖とは対照的やし、考えを巡らす度に、空恐ろしくなる。
例えば、収容所の煙突がおぞましい煙を吐いているのに対して、花畑がある。
子供たちのガーデンパーティーと処刑の音。
明るく流れる小川の中の人間の歯。
撮影監督のルカシュ・ザルは、ホスの家庭環境の精密さ、秩序、美しさをおそらくリアルにそして絶妙に捉えている。
作曲家ミカ・レヴィと音響デザイナーのマクシミリアン・ベーレンスは、この絵のような美しさと、並置された恐怖とホラーを、ホンマにゾッとするような方法で喚起している。
今作品の力強さは、なぜ人々はこのような恐怖と隣り合わせに生きながら、何事もなかったかのようにごくごく普通の生活を送ることができるんか、ちゅう問いを投げかけている点にあるんちゃうかな。
部屋でビール片手にポテチを食いながら今作品を観てる時にでも、あえて同じ問いを己自身に投げかけてみても良いかな。
クリスチャン・フリーデルとサンドラ・ヒュラーは、このイカれた権力者カップルを不穏な感じを見事に演じている。
ルドルフ役のフリーデルは、愛馬との感情的で優しい別れとともに、心を揺さぶる残酷さを表現していると云える。
ヘドウィグ役のヒュラーは、愛情を込めて花畑を作りながら、亡くなったユダヤ人犠牲者からの戦利品を貪欲に受け取る。
彼女は口紅やミンクのコートを試着する。
最初のうちは、ヘス家の家政婦はただの使用人だと思っていたけど、飲み物をトレイに載せてバランスをとるというような、最も単純な家事でさえも恐怖のどん底に突き落とされるのを目の当たりにする。
朝食時にヘルガがメイドを冷淡に脅す
『夫に、あなたの灰をバビツェの野原に撒かせることもできるのよ』なんて恐ろしい。
演技、脚本、編集 、キャストとスタッフ全員に個人的に拍手を送りたいくらいよかった。
この物語の二面性は、娘の劇的な夢遊病の場面でも表現されてるかな。
今作品は、ユダヤ人だけでなく、知識人、身体に障害を持たれてる方、少数民族、宗教的・政治的良心の囚人、性的指向の囚人などを絶滅させるために費やされた、膨大なロジスティックスと計画を見事に取り上げていた。
それこそ、恐ろしいことで、国家が公認し、国家が資金を提供し、国家が組織した大規模な殺人やった。
よう考えたら現代のあらゆる体制との関連性はどうなんか?
表面ではのどかな映画でも実はは厳しい。
ホンでもって重要な作品といえるし、斬新で示唆に富み、素晴らしいと個人的には思いました。
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