クリストファー

関心領域のクリストファーのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.0
私は映画見る時に前情報をほとんど入れないで観る方だが、この作品は特殊で、前情報というか、知識がないとまったく訴えどころが分からない。
しかも観察力と想像力も必要とされる。
新しいかも。
映画史に名を残す作品となるかもしれない。

固定の引きのカメラで展開されていく物語なので、
うっかりすると大事な設定、表情などを見落とす。
理解するのに難易度高いかも。
空は青く、花々の咲き乱れる美しい庭。
幸せに暮らす一家。
それをそのまま受け止めて見ていると、ただ過ぎていってしまう。
さらに、広い視野で見ないと、見失う、見誤る部分もある。
また、実は音の情報量がとても多いのだが、元々あんまり雑音が気にならないタイプの人(映画館で持ち込みの袋わしゃわしゃ言わせちゃうタイプの人とか)だと気にならないレベル。
終始ゴーって音や人々の悲鳴のような声、銃声のようなものまで流れているのだが、
気にしなければ気にならない。
問題意識を持って観ないと聞き流してしまう。

ヘスという所長は実在の人物だが、この妻は現実にはどうだったのだろう?
壁一枚隔てて、その向こうで大量殺戮が行われているのに、妻の関心事は、自分の生活を守ること。
制作者は「同じことがパレスチナで行われている」と言っているというが、本当にそうだ。
認識しなければ、それは存在しないことと同じ。
日常は穏やかに繰り返される。

この平和ボケの日本で、関心領域外に思いを馳せることはなかなか難しいと感じる。
世界情勢や戦争、紛争、貧困、民族、宗教、そしてその対立などの話をすると、「変わってる」とか「もっと地に足を付けた考えを持ちなよ」といったことを言われてきた。
他人はどうあれ、少なくとも私はあの壁の向こうで何が行われていたかを知っている。
もう関心を持たない、見ないふりをすることはできない。

Xでパレスチナの実情を追ったりしていると「あなたの関心が私たちの命を救う」
「もう無関心でなんていられないんだ、人が殺されているんだ」
「声を上げなければ命は失われていく一方だ」と言った発言を目にする。
ウクライナやパレスチナは、すぐそこの塀の向こう。
ひとりひとりが壁の向こうに関心を持ったら、世界はもう少し変わるかも知れない。
この作品によって、その意識を多くの人に持ってもらえたら、と思う。
クリストファー

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