冬原春子

タイタニックの冬原春子のレビュー・感想・評価

タイタニック(1997年製作の映画)
4.4
心の疲労と息苦しさがすごくて辛くてもう二度と見れないかもしれない。
タイタニックって名作があることや女性だけ生き残ること、実話であることだけ知っていて有名だし観てみようと軽い気持ちで金ローで見てしまった…

前半、お嬢様はやっぱり自由に刹那的に能動的に生きてる男に惹かれるよね〜って楽しくドキドキしながら観ていた。
石田彰さんでレオナルドディカプリオで軽率に恋に落ちた。
かっこよ!!え、かっこよ!!いいな!!!!!って感じでローズとジャックを応援していて夫人に借りた正装で他の人に気付かれないジャックを見て笑ったりドレスが似合う美しい女性でありながら下層で踊ったり酒飲んだり楽しそうなローズをニマニマしながら見ててすごく楽しかった。
ただ沈むんよね…何人生き残る?デッキが狭くなるなんてそんな戯言言ってないでボート持ってこいや!!みたいな仄かに暗くなりつつも十分楽しめた。

後半、しんどい。苦しい。
私は自分の死因になりたくないランキング1位が溺死で、それも密室で徐々に水位が上がっていくのを見てパニックになりながら緩やかに苦しんで死ぬのが本当に本当に絶対に嫌だとずっと前から思っていて。
手錠繋がれたまま水位が上がっていくジャックの部屋のあたりからもうずっと息苦しかった。
自分は乗れないと分かっていてボートに女子供を乗せる船員や家族と別れる旦那さん、最後まで楽器を引き続ける人たち、船長室で船と運命を共にする船長、設計者の人を見るのが辛すぎた。
割れた窓から水が入り込むのに巻き込まれたりするのリアルすぎる。
ノンフィクションでないというのが救いがなさすぎて…
まだ貴族たちが紅茶を飲んでいた時に人知れず切り捨てられたボイラー室の労働者たちのことを考えると心が苦しい。息苦しい。
自分は乗れないボートに人をしっかりと乗せるなんて無理だ、やらないといけなくてもきっちり規定人数ハイオッケー安全になんてできない。もちろんやらなきゃいけなかったんだけど。
そりゃ精神的にまともじゃいられなくなるって痛いほど伝わって辛い。
空想の物語なら涙ポロポロ流しながらジャックとローズはずっと一緒にいられないんだああって悲恋を見守るけれど、夥しい数の命が失われていくのを私はしゃんと見れなかった。
ずっと船のあちこちから上がっていた悲鳴がしんと静まった真っ黒な寒い海で遺体を避けながら生存者を探す一艘だけのボートに乗っていたら私は正気ではいられなかったと思う。

このタイタニック沈没がどこまで実話なのか知らない。
ローズが本当にいたのか、あのダイヤは実在するのか。
ただ沈没したという事実と、死んでしまった沢山の人がいるという事実が本当に辛い。
結末を知っててもこんなに辛いんだからタイタニックを知らない人に恋愛ものだよって見せたら二度と笑えなくなるんじゃないかってどうでもいいことを考えてしまった。

もう二度と見れないかもしれない。
この映画を見る気力が出る日はないかもしれない。
それでも絶対忘れない、そんな映画になった。


追記。
ローズもジャックも実在しないらしい。
でも最後まで演奏を続けた音楽隊の方々は楽器と離れないように紐で身体にバイオリンをくくりつけた状態で見つかったとか、白い服着て船に捕まってて最後の最後に酒飲んでた人はパン職人で、酒飲んだおかげで体温が下がらず助かったとか、そういうリアルな実話を沢山知ってしまった。
実話…
冬原春子

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