LudovicoMed

I Like Movies アイ・ライク・ムービーズのLudovicoMedのネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

《ボンクラでハッチャけられる無限に思えたモラトリアム有限期間の終焉》

ずいぶんと大きく出たこのタイトルmeets.見るからにボンクラそうな映画オタクくんと概ね想像が付く話をこぢんまり楽しもうかと思った。ところがこの映画びっくりするような当たりクジであり非常に濃い内容であった。それでいて広く無難に感情移入しやすいトラジコメディとして綿密に組み上げているからこそ、この手の映画愛に捧げた青春劇を楽観的に終わらせない刹那な後味を残す。最後まで観終わるとこのストレートすぎるタイトルがまるで切ない着地の避雷針のように聞こえてくるのだ。

本作では、そんな青春のひととき=モラトリアム期間を明確に落とし込んだプロットであるので、映画好きはもちろんのこと無限に思えて有限であるティーンの期間に何かに夢中でハマっていた人なら彼の未熟な行動をよく理解できるだろう。
特に斬新だったのはやたら目配せがちな思春期特有の性のパーソナルな悩み/在り方だったりが削がれている点。誰もが異性のことで頭がいっぱいな訳ではない方の全く新しい"ダサい青春劇"となる。と同時になんといってもウザイ系映画オタクの描写が意地悪なほどリアルで全くもってウエメセではないのだ。

2003年レンタルソフトショップ時代、カナダの高校生ローレンスは現実的な進路を見出さねばいけない時期、有名監督を輩出した名門ニューヨーク大学一択という漠然としたプランを目指し自分が常連のレンタルソフトショップでバイトを始める。仮のマブダチマットと提出用の卒業映画制作を任されてるも自分だけのビジョンに陶酔して中々映像化できてない状況にも関わらず映画知識が才能に結びついていると思い込んでいるため余裕をかましている。そしてキューブリックを崇拝しポールトーマスアンダーソンの新作に痺れている優越感が暴走し彼は自分語りばかりになってしまうのです。このシネフィル心理、正直チクチク心当たりがありヤバい。思うに彼は筋金入りの映画漬け人生ってよりはちょうどハマりたてで見漁ってる時期の映画好きあるあるを絶妙に捉えてるため、あのラインの映画を知ってるのが嬉しくて堪らないのだろう。例えばレンタルソフトショップ店長とのやりとりで、一番好きな映画何?と尋ねときながら「俺はキューブリックがマジ好きで〜」とついつい優越感が溢れ出し自慢に夢中で相手は面倒クセーとなり、ここで凡庸な映画を答えようもんなら説教が見えている。
好きな物を交わす会話のはずが、嬉しさ余ってウザさ100倍というサブカル特有のマウントと思春期ならではの未熟さが見事なギャグに落とし込まれている。

そして若さ故のエゴで周りが見えなくなる彼は、マブのマットから距離を置かれたことに目を逸らそうと或いは母親にバレたくない一心で途方に暮れレンタルソフトショップに泊まる禁止行為をする。そのせいで更なる泣きっ面に蜂を浴びる事となるが、これらの正しくなさも未成年の許容範囲としてギリギリを狙ったしくじりなのもこの映画の親しみやすさだったりする。そのクセ、ローレンスはメンタルが脆くそれに自覚的なのでいつまで経っても親離れできないタイプだ。憎めないが「残念でしたニューヨーク大学は落選、おまけに父の自殺で俺は情緒不安定」という新手の暴言には笑ってしまってすんませんです。

それらが、成長のプロセスとして経験しとけるしくじりが多いほど大人になれるみたいな観客が達観できるバランスにもなってると思える。面倒見がいい店長は自分のような映画の夢を理解してくれると思い込んでいたローレンスに対し映画が嫌いだとハッキリ告げるエピソードがある。現実はその折り合いを付けてかねばならない過酷さとローレンスの拗らせ行動を対比してくる。

そんな本作は、映画の魔法に救われるでもなければニューヨーク大学に受かることもなく悔しいハッピーエンドへと逸れていく。それも映画を鑑賞することで感情が揺さぶられるという定番のクライマックスをやりつつその作品とは自分が果たせなかった卒業映画なのだ。しかも見下していたマットとその彼女が意外にも才能があり認めざるを得ないという屈辱混じりの感動をして、卒業と共に煮え切らない友情にもピリオドを打つことに。あまりに現実通りの上手くいかなさに意表をつかれたが、まさに簡単には成長できないという青春劇だったのだ。もちろんこれといった努力はしてない彼にとって仕方ないシナリオでしょうが、このサイズ感の優れた長編デビュー作にしては意地悪さもしっかり含まれてるのが何より感激したポイントだった。

この悔しいハッピーエンドを導き出したチャンドラーレヴァック監督。いわゆる独自の芸風を確立しつつもその尖ったエッセンスは一貫してる監督の初期作、アレクサンダーペインの『ハイスクール白書』ウェスアンダーソンの『天才マックスの世界』みたいな衝動を秘めた尖りが今作にも強烈に木霊して惹かれるものがあった。しかも上記の有名監督を思わせる癖の強いユーモアセンス、荒っぽくも研ぎ澄まされたストーリーテリングによって無名にも関わらずフォローしときたくなる初期作特有のトキメキを感じた。

ただ、映画の後味を辛気臭くするほど崩すことはなく、社交性を覚える事でローレンスの未来を示唆し終わる。「君はダメな所が多いけどちゃんとすれば、みんなに好かれるから」という言葉が最も胸に突き刺さるよう段取りが組まれてたおかげで、ようやく好きな物を交わすコミュニケーションが成立する最後のシーンに、なんて素敵なんだと感動した。

ちなみに最初はまるで自分ごとのようにローレンスを見ていたが、段々とこんなに恵まれた青春を送れて羨ましいゾと思えてきて、俺はむしろ店長の立場だったという口でした。  
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