Garikuson

うまれるのGarikusonのネタバレレビュー・内容・結末

うまれる(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

車座になって大切な人の死に向き合う会合。ある人は病気になった娘の話、ある人は不注意で水難事故に巻き込まれた息子の話、一様に後悔と虚しさ、寂しさを語り尽くして、それでも前に進もうという意図の集まりである。そこに一人娘を高台からの転落事故で亡くしたばかりの安川の姿があった。安川の語りの番、ホストに促されても安川は話さない。過去にヒロミが天パを理由にクラスメート数人からイジメを受けている現場を見てしまった安川は、ヒロミの死は事故などではないのでは、という疑念を抱いたまま消化できずにいたのである。何より、安川は女手一つで理容師としてヒロミを育てていたのに、髪の毛の理由でイジメを受けていたヒロミを助けてあげることが出来なかったことを強く後悔していたのであった。

弱みにつけ込まれて怪しい宗教に誘われたりすることもあり、精神的に疲弊する安川。そんな安川を案じ、一人のママ友が娘の髪の毛を切って欲しい、と尋ねてくる。少し表情が緩み、少女の散髪を始める安川だが、その子が「ヒロミちゃん、みんなに飛べって言われて高台から飛び降りたんだよ」とこぼした事により態度が急変。怒りに我を忘れた安川は店を飛び出し、娘をイジメていた子供達複数名を事件現場の高台付近でひっ捕え、事件当日の一部始終をヒステリックに追求する。安川のあまりの剣幕に怯え切ったイジメっ子達は泣きながら互いに罪をなすりつけ合うが、その過程でヒロミのイジメの主犯であり、当日ヒロミに飛び降りるよう命令した女の子一人と、なかなか飛ばないヒロミを押して突き落とした女の子が一人、あとの数名は囃し立てた子であったことが分かる。さらにヒロミが転落して痙攣しているのを見て怖くなって、当事者達は誰にも言わずにその場から逃げたことが発覚。ヒロミは夜になるまで誰にも発見されず、そのまま命を落としたのであった。
涙にくれ発狂する安川。関わった子供達に「死ね!お前も飛び降りろ!」と怒鳴り散らし、子供達は蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまう。

後日、安川は学校の教室に呼び出される。そこには担任の教師、安川が追及した子供の保護者達が並んでいる。子供に危害を加えられた事で怒り心頭の保護者達は、口々に安川を糾弾する。俯き、震え、黙り込む安川だったが、遂に我慢の限界を迎えてしまい。。。

30分のショートフィルムとは思えないほど内容が重く心に残った。なんたる胸糞。仮に我が子がイジメられた挙句命を落としてしまったとしたら、きっと自分も正気ではいられないだろう。

安川、勧誘のオバハン、会に参加してた親達、イジメっ子とその保護者、担任
全員演技が凄まじい。
特に安川。本当に鬼気迫る。イジメっ子たちに髪の毛振り乱して迫るシーン、担任にブチギレるシーン、目を見開いてイジメっ子の保護者たちに怒鳴り散らすシーン。かと思えばラストシーンの穏やかとも取れる表情。

最後のスプラッターシーンの現実味の無さと投げやり感はややマイナスだが、そこにいたるまでの流れは引き込まれる。事なかれや保身、子供を盲信する姿勢から、保護者たちはイジメを認識した上で安川を非難し始めるのは胸糞の最たるもの。被害者に仮に原因があったとしても、加害を受けるに足る責任は無い。いつだって手を出す奴が悪い。

この世界にいる人たちは、全員が等しく祝福と笑顔の元でこの世に生を受けた「誰かにとっての愛する娘さんであり息子さん」なんだ、ということを我が心に改めて刻み込みます。。。
Garikuson

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