Garikuson

辰巳のGarikusonのネタバレレビュー・内容・結末

辰巳(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

裏社会で発生した死体を秘密裏に処理する「バラシ屋」として生きる男、辰巳。
辰巳の所属する組織では、内部で売上を掠め取っている人物がいると専らの噂になっていた。その日も辰巳は兄貴分たちの待つ隠れ家に向かい、嫌疑をかけられて殺された男のバラシを行っていた。
男を殺したのは組織の中でもかなりクレイジーな暴力兄弟である沢村兄弟。中でも弟の竜二は凄まじい暴力性の持ち主で、組織でも手を焼くほどの存在であった。組織の売上が掠め取られたことで組織全体のメンツが潰れた、と激昂する竜二は、凄腕とはいえ死体をバラす以外に特に手を汚すことのない辰巳に突っかかる。組織内の雰囲気は非常に険悪なものである。

ある日辰巳は、元恋人の京子から「妹の葵がヤクザと揉めている。助けてほしい」と依頼を受ける。葵はとにかく気性が荒く、相手がヤクザでも半グレでもお構いなしに噛みついていくとんでもないクレイジーガール。助けてやろうにもロクに話も聞かず、辰巳にすら噛みつく始末。呆れ果てた辰巳だが、元恋人の頼みとあっては無碍に断ることも出来ず、相手方のヤクザである後藤と葵の仲介にたつことになる。
後藤はその時ちょうど死体の処理に困っていたことから、辰巳は安全に死体を処理してやることを条件に葵を許してもらうことにする。もちろん葵はギャンギャン噛みつくが、辰巳と後藤は「てめえのケツはてめえで拭け」と言わんばかりに死体の埋葬を葵に手伝わせる。
夜遅く帰路についた辰巳と葵は、京子の夫である山岡が経営している自動車整備工場に到着する。

そこで葵が目にしたのは、沢村兄弟にめった刺しにされて倒れている京子と山岡。沢村兄弟は山岡が売上を掠め取っていることに気づいており、山岡を始末しにきたところを偶然にも残業中の京子に見つかってしまったのである。

大慌てで京子を抱えて辰巳の車に戻る葵。必死の形相で追いかけてくる竜二。組織のメンツを鑑みればその場に留まり葵と京子を消すべきではあるのだが、あまりの事態に気が動転した辰巳は京子と葵を連れて車でその場を離れてしまう。
しかし道中、京子は竜二に刺された傷が致命傷となり死亡。怒りに狂った葵は沢村兄弟への復讐を誓う。完全に組織と葵との間で板挟みになってしまった辰巳はなんとか穏便にことを運ぼうと兄貴分と沢村兄弟との話し合いに臨む。
組織の要望は一つ、葵を引き渡すこと。当然引き渡せば、葵は組織に殺されてしまう。なんとか折衷案を考えようとする辰巳。だがなんと家に置いてきた筈の葵は辰巳を尾行しており、こともあろうに隙をみて沢村の兄貴・タケシをナイフで強襲して殺してしまうのであった。
なんとも引っ込みのつかない事態に発展してしまったこの状況。竜二は怒り狂い、葵どころか辰巳まで殺してやると息巻く始末。あまりにも勝手な葵の行動に辟易とした辰巳は葵を見捨てることを決意する。しかし雨の中地面をのたうち回る葵をサイドミラーで見た辰巳は、今は亡き弟の陰を葵に重ねてしまっていた。
こうして辰巳は葵と共にその場を後にし、葵の復讐の手助けをすることとなるのだが。。。。


脂ぎった顔でキスする寸前かと思うくらいにドアップでメンチを切り合い怒鳴り合うチンピラたち。というか実際キスするとこもあるし。
裏社会の悲哀というか、とにかくヤクザが悉くカッコよくない。焦燥感に駆られ、常に金に困り、他の選択肢を選べないが故に裏稼業に身を落とし、さらにそこから裏切りと暴力で目先の金を求めて破滅に頭から突っ込んでいく。
この辺りはケンとカズの作風と酷似している。あれも相当面白かったな。

キャストについて。
この映画、ただの一人たりともハマっていないキャストがいない。演者全員が「この役はこの役者でないとダメだ!」と確信できるレベルでバッチバチにハマっている。
辰巳は裏社会の不条理にもジッと顔をしかめて耐え抜いている強烈なヒリヒリ感を纏った苦労人顔。コケた頬にザラついた肌感、彫りの深い顔に泥と皮脂が最高にクール。
葵はイカれ凶暴女と年相応の無邪気な表情を併せ持つ超繊細な女の子。本当に難しい役どころ、こいつがコケたら全部台無しのところを完璧に演じきっている。
竜二は常にヘラヘラしながら何かに怒りをぶちまけており、我慢もできず、暴力と恫喝がコミュニケーションの基本になってるヤベーヤツ感がムンムン。超強面なわけではないのに本当に関わっちゃいけないタイプの人っぽい演技が最高。
兄貴分は人の良さと部下に振り回される葛藤が随所に出ている中間管理職顔(途中の突然のキスシーンも何か妙に納得してしまう瞳の美しさとおヒゲ)だった。
弟は頭3分くらいしか登場しないけど辰巳のストーリーの根幹を形成するに十分なインパクトを残す名演。叩かれ、否定され、泣いているのか怒っているのかわからないような顔でギリッと辰巳を睨みつけるシーンは鳥肌が立った。藤原季節はこういう役やらしたらほんとに天下一品よね。

他のチンピラや元彼女もガッチリバッチリどハマリしている。よくぞこんなに揃えたもんだ。

竜二の役者さんは演技を離れて10年以上経過した演出家を起用しているらしい。
演出ももちろんだが、ロケーションも完璧。日本のどこにこんなとこあるんだ、という道や、葵がタケシを刺し殺す立駐とか、この映画のために作られたのではないかと錯覚するくらい完璧。あとはその場における天気に至るまで完璧。晴れてて欲しいところでは晴れ、曇ってて欲しいところはどんより、雨にしても豪雨とシトシトの具合までパーフェクト。
また、ストーリー上元々辰巳のバディは男性で企画されてたのにもっと面白い展開を目指して女性に切り替えたりと、とにかく普通の商業作品ならあり得ない流れが多い。
これもひとえに、作品に関わる全ての事象に責任を持って自分の納得するものにこだわり抜いたゆえに、メジャー映画ではなく自主制作という形を選んだ小路監督の気骨のなせる技なのだろう。ただただ天晴である。

作品の展開上当然バイオレンスな内容ではあるが、グロは相当控えめ。もうちょっとバラシのシーンがグロくても良かった気もする。
ただこの監督は元々ノワール取ってる割に暴力描写にかなり気を遣って配慮を滲ませている。カメラが避けたりカットが変わったり、音と表情で痛みを連想させるタイプの演出が目立つ。とても品が良い気がする。

竜二は問答無用で人を傷つける、後に何も残らないような暴力を振るう。
対して辰巳と後藤は殆ど作中で暴力を振るわない。辰巳は冒頭で弟に覚醒剤を止めさせるために暴力、というよりも折檻を行う。
後藤も同様で、暴れまわる葵に死なないし傷も残らない程度に教育的指導(暴力)を振るう。
同じ暴力でも後者2人は意味合いが全然違う。どこか優しさや愛情、憐憫のようなモノが暴力から感じられるのであるが、結局それを表現するのに暴力を振るうしかない、というのがまた彼らの悲しいところ。
辰巳は弟とわかり合うこと無く弟は失意と劣等感から更に薬に走ってそのまま死んでしまい、後藤の暴力も葵の狂気を鎮めるには至らなかった。最後に葵が辰巳とも後藤ともわかり合うのは、暴力ではなく「対話」であったのが感慨深いところである。
随所に色々な映画のオマージュや影響が見て取れる。序盤の始まりなんて完全に仁義なき戦いだし、あとは西部劇に影響を受けた、と小路監督自身も言っていた。
復讐の旅を経て辰巳から葵に継承された魂はまさしくクリント・イーストウッド主演のグラン・トリノを彷彿とさせるエンディングだった。だが葵も、他のキャラクターも、きっとこの先幸せになることはないのだろう。どこかそう予感せざるを得ない、しみじみとしたラストであった。

小路監督、もしかするとノワール以外のジャンルも結構イケたりするんだろうか。今後が非常に楽しみ。

ダラダラと感想を書いたけど、ジャパニーズノワール映画の超力作であることに間違いなし。
随所にこだわり抜いた監督の熱意がひしひしと伝わってくる、非常に熱量のある作品。文句なくおすすめ。

でも願わくば、一回だけでいいから商業のメジャー映画にも挑戦してもらいたい。。。小路監督、どうにかなりませんかねぇ?🤤
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