デニロ

四月になれば彼女はのデニロのレビュー・感想・評価

四月になれば彼女は(2024年製作の映画)
2.5
読み捨てられる 雑誌のように
私のページが めくれるたびに
放り出されて しまうのかしら
それが知りたくて とても
あなたの瞳の奥に旅してく
わたしなの
センチメンタルジャーニー  (センチメンタルジャーニー/歌詞:湯川れい子)

/愛を終わらせない方法、それはなんでしょう/長澤まさみは、佐藤健との初めての買い物だったワイングラスが割れて捨てられていくのを見ながらそう思う。

そんな物語。

そんな物語なんだけど、なんだかよく分からない設定が沢山あって、現代人はどこかしら病んでいる云々の台詞通りの展開が大爆発。

婚約者/佐藤健の学生時代の恋人/森七菜が不治の病でホスピスで最後の時を迎えている。それを知った長澤まさみが何を思ったかそのホスピスに就職するという悪魔的な所業をするんだけど。人はそんなことをするものだろうか。長澤まさみは当然監督にこれはどういうことでしょうか、と聞いたはずだ。その時、監督はその意図をどう伝えたんだろうか。森七菜にも長澤まさみのその意図に気付いていたと応じる台詞がある。彼女も、長澤まさみが何故そんなことをしているのか知りたいだろう。どう説明したのだろう。

長澤まさみにしてみれば、森七菜から佐藤健に送られてきた切々たる手紙を読まされた日にゃ気も狂わんばかりになろうというものだ。そもそも長澤まさみと佐藤健が出会ったのは、佐藤健の精神科診療室に患者として長澤まさみが訪れたから。表情からちょっと精神を痛めていた雰囲気なんだけど、問診では、診断書が欲しいだけだと。診断書がなければ残業できないとかなんとか。彼女の気怠い雰囲気からすると残業による過労で診断書が欲しい、というような演出なんだけど。佐藤健の声が変だ、と、喉を見せてと否も応もない言い方で口を開けさせられる佐藤健。同業者ですか?/獣医です。/そんなこんなで近づいていくのですが、病院の中を歩いたり、庭を歩いたりの会話が続き、おいおい、担当医として患者とそんなに親密にしていいのか、と思っていたら、肌まで合わせてしまって、大丈夫かこの医師。別の先生を紹介します、なんて観客向けにエキスキューズを入れたりするけど、遅いわい。

森七菜にも触れておくと、母親は出奔して父親と二人暮らし。だから家事はわたしがしているの。わたしがお母さんの代わりになる!って、女子はそんな風に思うのだろうか。これが微妙な台詞で、後々の父/竹野内豊の怪演に繋がるのです。だから、大学も家の近くにしたんです、そう写真研究会の先輩佐藤健に話す。そうか、だから毎日早く帰るんだ。ふたりはいつしか恋仲になって、サークル仲間で5浪くらいして医学部生になったような中島歩を煙に巻いて、楽しくデートなんかをしています。ふたりの話は盛り上がって写真を撮りに世界を旅しようということになる。それだけ富裕層なんだ。で、竹野内豊にその許しを請いに出向くのです。

竹野内豊も写真好きのようで鷹揚な態度で森七菜の幼い頃のアルバムを佐藤健に見せている。落ち着いた頃、竹野内豊が/何か話したいことがあるんじゃないのか。/ふたりが言い淀んでいると、/旅行の事か。/と問われてしまう。ここから竹野内豊の怪演が始まります。上を向きながらうーんと唸り、暗室を見せようか、と佐藤健を誘う。さっき見たいと言っていたよね。くっ付いていくと、照明で明るく照らされた暗室には幼い頃から撮り貯めてある娘の写真が隙間なくびっしりと貼り付けられている。娘とは離れたことがない。娘がいないと眠れないんだ。虚ろな目で佐藤健にそう訴える。自分の娘に勝手に欲情しているんだろうか。いや、そうとしか見えなかった。現代人はどこかしら病んでいる?

その後、旅立つために空港で待ち合わせるふたりでしたが、彼女は手ぶらです。やっぱり行けない。お母さんの代わりを選択したのでした。家路につく佐藤健は悲しみのあまりに駅のエスカレーターで倒れ込み泣きじゃくる。♬途に倒れて だれかの名を/呼び続けたことが ありますか♬中島みゆきの歌詞じゃあるまいに。

そんな森七菜からのひとり旅の手紙。ひとり旅?竹野内豊は死んだのか。その後彼の行方は杳としてしれぬ。そして、長澤まさみは失踪する。あちこち訪ね歩くが見つからない。同僚の精神科医に、話はしてたの?食事は一緒に食べてたの?一緒になにかしてる?夜は?/と問われ、言い淀む。寝室は別だし、彼女が一人で映画を観てたことを思い出す。それでよく結婚しようとしたね。

で、ホスピスでの話になるのです。

ラスト。愛を終わらせるか、愛を手に入れるのかの狭間を漂う佐藤健と長澤まさみは自分たちの家に戻る。帰ったら部屋で映画でも見ましょうか/イイですね~/と会話してたけど、このやさしさは仇にしかならない。ここは勿論セックスするしかないでしょうに。
デニロ

デニロ